「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
これで使える! ChatGPT
2023年6月5日発売の「週刊ダイヤモンド」(2023年6月10・17日号)の特集は、「ChatGPT完全攻略」。チャット形式で、誰でも簡単に使えるAI(人工知能)、ChatGPTの使い方マニュアルの「完全版」と銘打っている。
初級編では、5つの基本的な使い方を紹介している。メールの文面を3種類考えてもらう回答例を見ると、かなりの水準であることがわかる。たとえば、部下を優しく叱るメールでは、プロンプト(命令文)にはない、優しいフォローや説教じみた文章まで追加されている。
箇条書きの内容から日報をまとめてもらうと、要求した形式通り、きちんとした文章で日報が作成される。見出しやキャッチコピーを作るのも得意だ。10個も20個も一瞬で生成してくれる。
コツは、前提となる条件を可能な限り入力することだ。何度も頼めるのもChatGPTのいいところ。プロンプトを変化させつつ、10個ずつ出させるとバリエーションが豊かになる。
ChatGPTの達人、note CXOの深津貴之氏が考案した「深津式汎用プロンプト・システム」も参考になる。
ChatGPTは「何かいいアイデアを出してください」など、あいまいなプロンプトを入力すると、ぼんやりした答えしか返ってこない。深津式では、制約条件を課していくことで、精度を上げていく。ポイントはこうだ。
・最初に役割を書き、ロールを明確にする
・入力文から出力文を作ることを明確にする
・制約条件の前に#(ハッシュタグ)をつけ、本文との違いを明確にする
・制約条件は箇条書きにする
さらに、「このタスクで最高の結果を出すために、追加の情報が必要な場合は、質問をしてください」という2つ目のプロンプトを、1つ目の最後に追加するかたちで使う。
すると、ChatGPTが答えを考えるために足りない情報を聞いてきて、それに人間が答えるというやりとりができて、精度が上がるという。
履歴を残しておきたい、キーボードを打つのが面倒、というときに便利なのが、ウェブブラウザ「Google Chrome」にインストールして使う拡張機能(無料)だ。
音声入出力用のボタンが追加され、声で質問を入力して、回答をパソコンに読み上げてもらえるようになる「Voice Control for ChatGPT」など3つを取り上げている。
◆他のソフトと組み合わせて、生産性アップ
アドインをインストールすることで、Excelの関数としてChatGPTを使うことも可能になる。だが、従量課金になるので、注意が必要だ。利用できる3つの関数の使い方を詳しく解説している。
また、異なるアプリケーション同士を接続して自動化できるツール、「Zapier(ザピアー)」とChatGPTをつなぎ、複数のソフトにまたがるルーティン作業を自動化する方法を紹介している。有料のChatGPTPlusのユーザー限定だが、これが便利だ。
読者から応募があった利用法の中から、7つの使いこなし術を取り上げている。
たとえば、「自分のレベルに合わせて英文を書き換え、自分専用の教材にする」「Excelシートを参照して、Outlookで自動的にメールを送る」「社内文書のデータをChatGPTと連携、検索可能にする」など、実用的なものが多い。
グーグルの生成AIサービス「Bard」、マイクロソフトの「Bing AI」についても触れている。どちらもChatGPTと異なり、最新情報をインターネットから検索して利用できるのが特徴だ。
すでにChatGPTを利用している企業の先行事例も興味深い。
全社員9000人に解放したのは、大和証券。同社はPythonのエンジニア認定資格を持った社員が1000人以上おり、それぞれの現場でChatGPTを活用するアプリ開発をする構えだ。
このほか、五大法律事務所の一角、森・濱田松本法律事務所では、弁護士が判断を下すための資料作りの大部分をAIなどに任せていく方針だ。
生成AIによる雇用への影響について、米ゴールドマン・サックスは、「現在の仕事の4分の1を代替できる」などの研究結果を公表したという。ホワイトカラーの仕事の価値は激減しそうだ。ChatGPTを使いこなせるかどうかが今後、ビジネスパーソンの試金石になるかもしれない。
ChatGPTに関する書籍は少しずつ出てきたが、まだ内容が不十分。現時点では、この特集が最も詳細かつ最新のマニュアルだと思った。保存版として活用したい。
コロナ禍で進んだお寺離れ
「週刊東洋経済」(2023年6月10日号)の特集は、「宗教 消滅危機」というショッキングなタイトル。コロナ禍で葬儀が簡素化し、一気にお寺離れが進んだという。消えゆく寺、墓、葬儀の最新事情を追っている。
新型コロナウイルスの流行により、世間体を気にして葬儀を出していた人たちが、葬儀は出さない、という選択肢を取り始めたという。通夜を省いた「一日葬」や、僧侶を呼ばない「直葬」を選ぶ人まで出てきている。
公益財団法人全日本仏教会と大和証券による「仏教に関する実態把握調査(2022年度)報告書」の興味深いデータを紹介している。
それによると、自分の葬儀をどのように執り行いたいかを尋ねた質問に対し、「普通の葬式」が53.9%、「一日の葬式」が20.1%、「僧侶付きの火葬のみ」が4.1%、「僧侶を呼ばない火葬のみ」が20.9%という、驚きの内容だ。
新型コロナウイルスの影響を受けたのは寺ばかりではない。より深刻なのが、葬儀業界のようだ。葬儀の簡素化が進み、平均単価はコロナ前2019年の約134万円から21年には約112万円まで落ち込んだ、と同誌は推計している。
感染が終息しても、「コロナ前の水準には戻らないのでは」という業界の悲観論を取り上げている。すでに長期傾向として「葬儀の小規模化」と「競争の激化」が進んでいたからだ。
「家族葬」が一般的になり、ごく親しい人も含めた20人前後が大半だという。さらに、ネット系サービスが価格破壊を起こし、低価格スパイラルに陥っている、と指摘する。
そもそもネット業者は、自社が葬儀を行うわけではない。提携する葬儀業者に施行を委託し、葬儀業者から仲介手数料を得るというビジネスモデルだ。その手数料は葬儀費用の3割といわれる。
火葬式で「遺族の面会はできないことにしてくれ」と葬儀業者から言われるスタッフ派遣業者の声を紹介している。面会室を使えば、追加料金が発生するからだ。このような最低限の費用まで削ろうとする業者がいるのは、集客力の乏しい零細業者が多いからだと見ている。
思えば、評者もコロナ禍により、法事を執り行うことができなかった。その後、寺との距離感は広がったような気がする。さまざまな社会変動を乗り越え、社会のニーズをくみ取ってきた仏教。「必要とされる寺であるために、何をすべきか」と特集は問い直している。
電気自動車(EV)の蓄電池を活用し、再生エネルギー生かす
「週刊エコノミスト」(2023年6月13日号)の特集は、「電力が無料になる日」。本当にそんなことが可能になるだろうか?
カギになるのは、電気自動車(EV)の蓄電池を活用するエネルギーだという。大型蓄電システムとして系統(送配電網)につなげる取り組みが始まった。
住友商事はこの夏、北海道千歳市で約700台のEV電池を使い、出力6000キロワット、容量2万3000キロワットの大型蓄電所として北海道電力の送電網に接続する。
EVシフトを本格化したトヨタ自動車は、東京電力ホールディングス(HD)と提携し、新品のEV電池を大型蓄電システムとし、送電網につなぎ、再エネの電力を有効活用する実証を始める。
NTTも、電力子会社NTTアノードエナジーが東京電力と中部電力が折半出資する日本最大の発電会社JERAとともに、200万キロワット規模の再エネ会社グリーンパワーインベストメントを3000億円で買収し、再エネ電源を確保する。NTT、東京電力、トヨタ自動車3社のエネルギー提携が進みそうだ。再エネという燃料費のかからない究極の国産エネルギーを、電池を活用して使い倒すことは夢ではない。
日本総研創発戦略センター・シニアスペシャリストの瀧口信一郎氏は、「EV電池の送電接続こそが日本の生きる道だ」と提案している。
日本はこれまでEVにためた電力を住宅に供給する「ビークル・ツー・ホーム」で他国に先駆けて取り組んできたが、今後はさらに昼間にためた電力を夜間にグリッド(送配電網)へと供給する時代が来る、と予想する。
ドイツでは、再エネを消費地に送電するため、EV蓄電池を「調整弁」にして、風力発電が盛んな北部と電力需要が多い南部の地域格差の解消を目指している。日本企業にとってもビジネスチャンスになる、と日本貿易振興機構(JETRO)ミュンヘン事務所長の高塚一氏がリポートしている。
日本で最も再エネの普及が進む九州電力のエリアでは、作りすぎて送電網で受け入れられず、出力制御という形で捨てられた電力が200億円に達したという。
こうしたムダを全国で減らすと同時に脱炭素を達成しようという動きに光明を見たような気がする。(渡辺淳悦)