トヨタ自動車、ダイハツ工業、スズキの3社が軽商用の電気自動車(EV)を共同開発し、日本自動車工業会(自工会)が2023年5月18~21日に広島市で開いた展示イベントで公開した。
ライバルのダイハツとスズキが、トヨタを介して組む共同開発の軽商用EVとは、一体どんなクルマなのか。
軽市場で首位を争うダイハツとスズキのタッグ ライバル陣営には脅威
国内の軽商用EVは現時点で、大手メーカーでは唯一、三菱自動車工業が「ミニキャブ・ミーブ」を市販している。今後、ホンダは軽商用車「N-VAN(エヌバン)」をベースにした新型の軽商用EVを2024年春に発売する予定だ。そのため現在、ヤマト運輸と市販に向けた実証実験を進めるなど、開発は大詰めを迎えている。
トヨタ、ダイハツ、スズキの3社は、共同開発の軽EVを「2023年度内に導入する」と発表しており、早ければ24年の年明けにも登場する見込みだ。
軽の商用EVは、トヨタ・ダイハツ・スズキの3社連合、ホンダ、日産自動車・三菱自連合の3陣営が国内市場でライバルのなることが確実となった。
このうち、軽市場で首位争いを演じるダイハツとスズキが、トヨタを介して軽商用EVを共同開発することは、ライバルには脅威となるだろう。
ダイハツ「ハイゼットカーゴ」をベースに、トヨタが電動化技術を供与 満充電の航続距離は200キロ程度 価格帯は?
3社連合の軽商用EVはダイハツの「ハイゼットカーゴ」をベースに、トヨタが電動化技術を供与する。ダイハツが生産し、トヨタは「ピクシスバン」、スズキは「エブリィ」のEVとして市販する予定だ。
それぞれの3車は、ハイゼットカーゴのフロントマークがダイハツ、トヨタ、スズキの各社で変わる程度で、フロントマスクの変更もない。
これが乗用の軽EVであれば、ベース車両は同じでも日産サクラと三菱eKクロスEVのように、フロントマスクくらいはデザインを変えるはずだが、コスト優先の商用車となると、話は別のようだ。
満充電による航続距離は、200キロ程度という。スズキの鈴木俊宏社長は広島市内の展示会場で、記者団に「補助金を含め200万円を切るところへ持っていけるかどうかが一番重要だ」と述べた。
鈴木社長は「(200万円を切る価格では)利益面では厳しい」というが、軽商用EVを市販することで、将来的に乗用車を含めた軽EVをユーザーに理解してもらう重要性を説いた。
他の陣営の動向かどうか――。
国内の大手メーカーの軽商用EVは、三菱自がミニキャブ・ミーブを2011年12月に発売したが、郵便配達など需要が限られたため、2021年3月末に生産を終了。その後、2022年11月に市販を再開した経緯がある。
ミニキャブ・ミーブのリチウムイオン電池の容量は16kWh(キロワット時)で、航続距離は133キロ(WLTCモード)。メーカー希望小売価格は243万1000円からだ。
新規参入するライバルメーカーが性能と価格面でミニキャブ・ミーブを凌駕するのは間違いない。
一方で、ホンダは「航続距離は200キロを目標としており、価格はガソリン車と同等の100万円台からの設定とすることで、EVの普及を目指す」とコメントしている。航続距離や価格設定の目標は、トヨタ・ダイハツ・スズキ連合と同じだ。
効率的な「ラストワンマイル輸送」に最適な仕様となる車両へ 軽乗用EVへの展開も期待
2022年は日産と三菱自が共同開発した軽の乗用EV(日産サクラと三菱eKクロスEV)がヒットし、「日本カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞するなど話題となった。ところがいまのところ、両社に続く大手メーカーの軽EVは現れていない。
そうした状況から、軽では乗用車よりも商用車のEVが先行し、2024年春までに3陣営の商品が登場しそうだ。
軽の商用EVは、郵便や宅配業者など「ラストワンマイル」と呼ばれる近距離輸送が多い。そのため、航続距離が短いEVでもガソリン車からの代替が容易で、各メーカーとも商機があると見込んでいる。
この分野では中国企業が日本市場に参入する動きもあり、日本の軽メーカーといえども楽観はできない。
今回、トヨタなど3社連合は「効率的なラストワンマイル輸送に最適な仕様を追求した」と話している。
どこが効率的で、最適なのか。
具体的な言及はなかったが、トヨタの電動化とダイハツ・スズキの軽商用車開発のノウハウが生きるだけに、期待が持てそうだ。軽商用EVの普及が進めば、リチウムイオン電池や「eアクスル」と呼ばれる動力装置の軽乗用EVへの流用も可能だろう。
なお、ホンダは「商用利用はもちろん、日々の買い物や通勤・通学、趣味活用などに十分対応する実用性を兼ね備えた軽EVを開発している」としている。
各メーカーが新規参入する軽商用EVは、ゆくゆくは乗用車(軽EVワゴン)としての展開なども期待できそうだ。(ジャーナリスト 岩城諒)