「AIは気候変動やがん治療などの課題解決につながる」と言っていたはずなのに...
AIがもたらす脅威については、2023年3月に、イーロン・マスク氏らがすべての人工知能(AI)技術の開発を6か月間停止するよう呼びかけたことが話題になりました。
ところが、こうした「警告」の水面下では、着々とAI開発が進められていて、企業間の開発競争はさらに激化していると、複数のメディアが指摘しています。
また、チャットGPTのアルトマン氏はつい先日、「AIがもたらす技術革新は、気候変動やがん治療といった、人類の課題解決につながる可能性がある」と、「楽観論」を述べていたはずです。
「人類の課題解決」になるのか、それとも「人類の滅亡」を招くのか、「いったいどっちなんだ!」と叫びたくなりますが、各国メディアの報道を読み解くと、「AIのマイナス面を認めつつ、それを上回るメリットがある」と考えているようです。
若干38歳のアルトマン氏は、学生時代からビジネスの才覚にあふれ、とりわけ成長する技術や市場を見極める「眼力」が優れていると評価されているようです。チャットGPTに関しても、競合他社に先駆けて次々とAI技術の公開に踏み切り世間を震撼させる一方、AI開発には政府の法整備が必要などと訴える「バランス感覚」が印象的です。
また、チャットGPTの急激な普及により、欧州各国などで「規制」の動きが広がった時は、すぐに各国を訪問して首脳陣と面談をするなど、フットワークの軽さも見せつけました。もじゃもじゃ頭に朴訥とした風情のアルトマン氏ですが、列国の首脳と直談判するあたり、なかなかの「おやじ殺し」ぶりを感じます。
日経新聞によると、オープンAIの22年度の赤字幅は5億4000ドル(約750億円)に上ったそうです。莫大な開発投資が先行するだけでなく、AI開発に欠かせない高性能な半導体の確保や電気代、サーバー使用料などの運用コストが膨らむことが、赤字の原因だと伝えています。
さらに、欧米メディアは、アルトマン氏やイーロン・マスク氏らが、AI開発を進めながらもその「脅威」を警告するのは、熾烈な技術競争が背景にあるとしています。世間の「反AI世論」を醸成することで、競合の開発を遅らせて追撃をかわすことが真の狙いであるとか。
いずれにしても、AIがこの先どう私たちの生活や地球の在り方に影響をもたらすのか。予想不可能であることは間違いないでしょう。私たちは、これまで経験したことがない世界へ向かっているのかもしれません。
それでは、「今週のニュースな英語」は、「extinction」(絶滅)を使った表現です。
Artificial intelligence could lead to extinction
(AIは人類の絶滅につながる可能性がある)
Tha Japanese ibis in an extinction crisis
(日本のトキは絶滅の危機にある)
恐ろしいのは、人類が「extinction」(絶滅)する可能性は警告されても、AIや核兵器が絶滅する可能性は指摘されていないことです。人類が生み出した産物が、コントロール不可に陥ることだけは避けてほしいところ。
チャットGPTの台頭でAIリスクを身近に感じられるようになったとしたら、チャットGPTがもたらした最大のメリットだと言えるでしょう。(井津川倫子)