政策の恩恵が国有企業に集中、民営企業が蚊帳の外
一方、中国経済の「変調」の主な原因は、若者失業率の増大と、政府が国有企業を優遇して、民営企業を冷遇していることにあると指摘するのは、大和総研主席研究員の齋藤尚登氏だ。
齋藤氏はリポート「中国経済見通し:変調? 一時的減速?」(5月24日付)のなかで、中国の失業率のグラフを示した【図表2】。
これを見ると、若年層(16歳~24歳)と、中堅層(25歳~59歳)の失業率の動きが全く違うことがわかる。若年層は年々上昇し、現在20%に達しているが、中堅層は約5%以下で推移し、むしろ低下傾向にある。
齋藤氏は、若年層の失業率が上昇しやすい背景をこう説明する。
「企業のリストラのしわ寄せが若年層に集中することがある。中国でも労働者保護の意識が高まりつつあり、ある程度の規模以上の企業などが会社都合で従業員を解雇する場合、勤続年数に応じた補償を行うことが義務付けられている。若年層は雇用の調整弁として使われることが多い」
さらに、大学卒業以上の学歴を持つ若者は、IT関連企業や金融業、不動産業、教育産業などの民営企業を希望する人が多い。いずれも、政府による規制強化によって大量解雇が相次いだ業種だ。たとえば、巨大IT企業のアリババは約2万人、テンセントは約4400人のリストラを行なった。
こうした若者の失業率を改善して、民営企業を活気づけるにはどうしたらよいか。齋藤氏はこう結んでいる。
「巨大IT・プラットフォーム企業をはじめとする民営企業の中国共産党・政府に対する信頼回復が鍵を握ると考えている。習近平国家主席曰く、民営経済は『税収の5割以上、GDPの6割以上、技術革新の7割以上、都市部雇用の8割以上、企業数の9割以上を占める』としている」
「しかし、現状では国の政策の恩恵が国有企業に集中し、民営企業が蚊帳の外に置かれる『国進民退』の問題が深刻化している」
「今後、中国共産党・政府に求められるのは、短期的には民営企業支援策を積極的に強化することであろう。たとえば、民営企業向けの銀行貸出の伸び率が全体を数%ポイント上回るように、中国人民銀行が窓口指導を行うなど、実効性のある政策の実施が望まれる」
(福田和郎)