ケタ外れの巨額な過剰債務を恐れ、中国指導部が景気刺激策に慎重
さて、その中国当局はどんな経済対策を考えているのか。
実は、「中国指導部は、需要の弱さを認識しつつも、過剰債務問題や地方財政悪化への懸念から追加景気刺激策には慎重だ」と指摘するのは、伊藤忠総研のチーフエコノミスト武田淳氏と、客員研究員玉井芳野氏だ。
2人はリポート「中国経済:景気回復は続くもペースは鈍化、2023 年の成長率は5%台前半にとどまる(改訂見通し)」(5月26日付)のなかで、中国指導部の事情を説明する。
それによると、中国指導部は4月末、1~3月期の景気情勢を踏まえ、今後の経済政策の方針を示す党中央政治局会議を開いた。そして、足元の景気改善はまだ「回復的なもの」であり、「内生的な動力はまだ強くなく、需要は依然として不十分」であると指摘した。しかし、需要を刺激するための追加景気対策はなかった。
その理由を2人はこう述べる。
「需要の弱さを認識しつつも、新たな景気刺激策には慎重な姿勢からは、長期にわたって蓄積された過剰債務・投資問題の悪化を避けたいという政府の意図がうかがえる」
「また、不動産市場の調整長期化により、土地使用権譲渡収入が大幅に減少する中(2023年1~4月累計で、前年同期比マイナス21.7%)、地方政府に支出拡大余地は乏しい。こうした事情を考慮すると、政府にとって、全人代で掲げた『前年比プラス5%前後』という控えめな目標を大きく上回る成長を目指すのは困難だろう」
中国の「過剰債務」問題とは、地方政府が過去10年、インフラに過剰な投資を行なったり、コロナ対策の景気下支えのために大量の地方債を発行したり、さらに「シャドーバンク」(影の銀行)から借り入れたりして、莫大な借金を背負い込んだことを指す。
公式の統計には載らない「隠れ債務」が正式の債務の1.5倍以上あるといわれる。今年1月、IMF(国際通貨基金)の推計によって、借金まみれの地方政府の実態が明らかになった。地方政府が2026年には金利だけで5兆元(約100兆円)以上を支払わなければならないという。
これは、日本の政府予算(2023年度一般会計予算案)が過去最大の114兆円だから、いかにケタ外れの額かわかる。中国指導部としても無理な経済成長を目指すことに慎重にならざるをえないというわけだ。
今後の見通しについて、武田氏と玉井氏は「2023年の成長率は、前年比プラス5.3%前後と、5%台にとどまる見通し」と予測する。
「なお、個人消費の鈍化ペース加速や不動産市場の回復の遅れ、海外景気の悪化などにより、予想より景気が下振れるリスクは高まっている。仮に成長率が5%を下回る懸念が強まれば、インフラ投資強化や一段の預金準備率引き下げ、住宅ローンの頭金比率や金利の調整などによる景気下支えが図られよう。これらに関する政府の判断については、7月の党中央政治局会議で4~6月期の景気動向を踏まえて議論される。その内容に注目したい」