就職先や転職先、投資先を選ぶとき、会社の業績だけでなく従業員数や給与の増減も気になりませんか?
上場企業の財務諸表から社員の給与情報などをさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは、葬儀やお墓、仏壇を主軸とした「終活市場」で事業を行う鎌倉新書です。
鎌倉新書は1984年、仏壇仏具業界向けの出版社として設立。2001年の月刊誌「月刊仏事」発刊と平行し、葬儀に関するポータルサイト「いい葬儀」をリリースして運営。その後も、姉妹サイト「いいお墓」「いい仏壇」などを立ち上げます。
これらのポータルサイト事業が急成長し、2015年に東証マザーズへ上場、2017年東証一部(現プライム)に市場変更。現在も社名は創業時のままですが、書籍事業の売上高が占める割合は約1%にまで小さくなっています。
売上高はコロナ後にV字回復も、利益率は悪化
それではまず、鎌倉新書の近年の業績の推移を見てみましょう。
鎌倉新書の売上高は、マザーズ上場当時の2016年1月期は11億円あまり。そこから順調に伸びて、2020年1月期には30億円台になりました。2021年1月期はコロナ禍の影響で横ばいに。その後はふたたび勢いを取り戻し、2023年1月期は50億円の大台に乗っています。
なお、2022年1月期から「収益認識に関する会計基準」を適用しており、従来の基準と比べて売上高、営業利益、経常利益および当期純利益がそれぞれ984万円減少しました。それでも大幅増収になっていることを考えると、V字回復の大きさがうかがえます。
営業利益は上場後赤字もなく順調に伸びていましたが、やはり2021年1月期に大きく落ち込み、2019年1月期には30%近くあった営業利益率が8.2%に。その後、回復基調にはありますが、13%台とコロナ前の水準には至っていません。
2024年1月期の業績予想は、売上高が前期比30.1%増の65.1億円、営業利益が同25.3%増の8.6億円、営業利益率は13.2%となる見込みです。
ポータルサイトで「終活ワンストップサービス」を提供
鎌倉新書は「終活事業」の単一セグメントですが、有価証券報告書には「終活事業」と「終活関連書籍出版事業」のサービス区分別の売上高が記載されています。
また有報には、終活事業の内訳として「お墓事業」「葬祭事業」「仏壇事業」「相続事業」「介護事業」「官民協動事業」「その他」という区分が示されています。
2023年1月期の売上高構成比は、「お墓事業」が37.8%、「葬祭事業」が21.5%、「相続事業」が10.9%、「介護事業」が8.6%、「仏壇事業」が6.9%、「官民協動事業」が5.4%、「その他事業」が7.6%、「書籍事業」が1.3%です。
鎌倉新書のビジネスモデルは、優良事業者とユーザーをつなぐ「終活ワンストップサービスの提供」です。
ポータルサイト「いい葬儀」「いいお墓」「いい仏壇」「いい相続」などを開設し、寺院や石材店、葬儀社、仏壇店などの情報を無料で掲載して、高齢者とその家族を紹介し、成約した場合に手数料を受け取ります。
インターネット以外でも、顧客向けセミナーを実施したり、配賦用チラシや小冊子を作成したり、出版物を刊行したり、業界調査レポートを出したり、動画データベースを作成したり、コンテンツの伝達手法はさまざまです。
紹介はメールだけでなく、電話(24時間無料相談)やチャットなどでも対応。現在では、上記ポータルから派生して「いい保険」「いいマネープラン」「いい不動産」「いい遺品整理」「いいお坊さん」「いい介護」などラインナップを充実させています。
平均年収617.7万円、平均年齢38.4歳
鎌倉新書の単体従業員数は、2019年1月末に87人でしたが、翌期から105人、135人、155人と順調に増え、2023年1月末には164人に達しています。
子会社は、介護施設あっせん事業を行うエイジプラスのほか、海外散骨事業を行うハウスボートクラブがあり、2023年1月末の連結従業員数は190人です。
鎌倉新書の平均年間給与(単体)は、2019年1月期には500万円台でしたが、2020年1月期には620万円に大幅アップ。コロナ禍で利益が急減した2021年1月期には平均給与も減少しましたが、600万円台を維持しました。
2023年1月期は617.7万円に。平均年齢38.4歳、平均勤続年数3.3年です。
鎌倉新書の採用サイトを見ると、新卒採用のほか、「ビジネス職」「プロダクト開発/エンジニア職」「カスタマーサポート職」での募集が行われています。
新事業開発/店舗事業・企画の求人では、鎌倉新書が運営する窓口de終活(店舗事業)の企画全般を担当。イベントの企画からマーケティング全般、外部パートナーとの折衝など、店舗運営に関するすべての業務を担当します。
想定年収は752.88万円~1000万円(月40時間の固定残業代を含む)。リモートワークは週2日可能とのこと。東京都情報サービス産業健康保険組合に加入しています。
一層進む高齢化で「終活市場は当面拡大傾向」
鎌倉新書の株価は、マザーズに上場した2015年12月には100円台で、翌2016年2月には80円まで落ち込みました。しかしその後は徐々に上昇し、2019年12月には2000円を突破しています。
その後、2022年3月に300円台まで急落しましたが、2023年に入って1200円目前まで回復。現在は800円前後まで下がっています。
鎌倉新書の有価証券報告書によると、我が国においては死亡者数が2040年ごろまで増加傾向にあると予測されており、2065年には全人口に占める65歳以上の高齢者の割合は38.4%(2021年10月現在で28.9%)に達すると見られるそうです。
日本社会にとっては恐ろしい推計ですが、事業を行う鎌倉新書は「終活市場は当面拡大傾向にあり、事業機会はますます増加していく」と明るい未来を描いています。(こたつ経営研究所)