「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
決算書の読み解き方とは
2023年5月29日発売の「週刊東洋経済」(2023年6月3日号)の特集は、「四季報記者が教える 決算書の読み解き方」。最新決算を分析することで、苦手意識の克服を狙っている。
基礎編では財務諸表の構造を理解する。損益計算書(PL)、賃借対照表(BS)、キャッシュ・フロー計算書(CS)の読み方を講義。その後、ベストセラー「世界一楽しい決算書の読み方」の著者、大手町のランダムウォーカー氏がつくった会計クイズで肩慣らしをする。
たとえば、百貨店業界の2つのPLを示し、どちらが丸井グループで、どちらが三越伊勢丹HDかを当てる。金融中心の丸井グループのほうが、売上原価も小さく、利益率の高いPLの構造になっている。
「四季報」記者が3つの視点から、決算書を見るポイントを解説している。
まず重視するのが「収益力」だ。固定費が重い事業は損益分岐点が高く、利益を確保するのに大きな売上高が必要となる。
決算書や関連資料で固定費、変動費の内訳を示している会社は少ないが、PLの計上品目などから簡易的にでも推定し、利益の出方の傾向をつかんでおくことは可能だという。
次に見ていきたいのが「将来性」。決算短信で開示している「業績予想」が参考になる。
だが、コロナ禍を受け、予想を非開示にする企業が続出した。独自の業績予想を掲載している「会社四季報」が参考になりそうだ。
最後が「危険度」。BS項目で注意したいのは「棚卸資産(在庫)」だ。売上高の伸びに対して在庫の増え方が異様に大きい場合は注意したい。
「継続企業の前提に関する注記(疑義注記)」と「継続企業の前提に関する重要事象等(重要事象)」も、最も端的に危ない会社を指し示している項目だ。
非財務情報の開示が本格化してきた。日本でも23年3月期以降の決算期から有価証券報告書に関連情報が掲載される。「従業員の状況等」では、「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」の3つの数値情報が新たに追加される。また、「サステナビリティー(持続可能性)に関する考え方及び取組」が新設される。
後者を金額換算し、会計に取り入れていこうという動きがあるという。また、近いうちに環境コストの財務諸表への計上が実現しそうだというから、新しい利益概念への目配りが求められる。
◆無料かつ優秀!決算分析の便利ツール
決算分析の便利ツールも紹介している。「会社四季報オンライン」は四半期決算の注目ポイントを押さえるのに便利だ。
無料かつ優秀な分析ツールとして、「バフェット・コード」を勧めている。銘柄を検索して最初に開く企業概要ページにはあらゆる指標の図解が並び、直観的に業績の好不調がわかる。
マネックス証券が口座開設者に無料で提供している「銘柄スカウター」も便利だ。セグメント構成とセグメント別売上高・利益の推移が確認できるので、より細かな決算分析ができるという。
特集の最後に、電機、半導体、自動車、小売り、通信など各業界の企業の財務諸表を読み解いている。たとえば、半導体の製造受託を行う台湾のTSMC。純資産に対する固定資産の割合を示す固定比率が98%と、財務の安全性が非常に高いことがわかる。
自動車業界ではセグメント別の営業利益に注目している。
日産自動車の場合、自動車と自動車ローンなどを扱う販売金融に分かれる。セグメント別営業利益を見ると、利益を稼いでいるのは販売金融であり、20年度以降に利益率が急上昇している。反面、自動車事業の利益率は低い。収益は改善したと言っても、1台当たりの営業利益はトヨタ自動車の約半分だという。
各企業の動向と財務諸表をつき合わせた解説は非常にわかりやすい。
門戸が拡大した医学部受験
「週刊ダイヤモンド」(2023年5月27日号)の特集は、「今なら目指せる! 医学部&医者」。難関とされる医学部受験に変化が起こり、MARCH(明治・青山学院・立教・中央・法政)理系レベルまで門戸が拡大しているというのだ。
これまでは、私立最難関の早稲田大学か慶応義塾大学の理系に合格できるレベルでないと、医学部には合格できないと考えられてきた。
しかし、医学部上位層と下位層の差が開いてきたため、地方の国公立大学でも難易度下位であれば、河合塾の偏差値55(MARCH理系相当)あたりでも一般入試で狙えるようになったという。
私立大でもMARCH理系レベルの狙い目としては、埼玉医科大学、金沢医科大学、川崎医科大学、獨協医科大学、聖マリアンナ医科大学、岩手医科大学、東京女子医科大学などを挙げている。
私立大は安くても6年間で2000万円台と高額な学費がかかるが、さまざまな奨学金制度がある。たとえば、東京都足立区では最大3600万円の奨学金(返済不要)を支給する。そうした情報を集めるのも大切だという。
私立医学部のお宝選抜制度も紹介している。
1つは金沢医科大学の総合型選抜。1次試験は英語、数学、理科2科目、一般問題で、基本問題が解ければいいそうだ。2次は個人面接と自己推薦書。河合塾の偏差値が40台だった生徒が複数人合格しているという。卒業後に金沢医大が指定する病院で5年間の臨床研修をすることが出願の条件になっている。
このほか、東邦大学の総合型選抜、東京女子医科大学の学校推薦型選抜が狙い目だという。
◆医者のキャリアの「新・勝ち組」ルート
医学部を卒業し、晴れて医師になってもさまざまな序列があり、大変なようだ。
パート2では、「医療ムラ」の権威と序列が崩壊してきたことを伝えている。内科系、外科系、産婦人科系、小児科系などが「メジャー科」、眼科、耳鼻咽喉科、皮膚科、精神科、形成外科、整形外科などが「マイナー科」とされてきた。
しかし、相対的にメジャー科の方が仕事はハードで、訴訟リスクも高く、医師の間でもワークライフバランスが重要視されるようになり、マイナー科の人気が高くなっているという。
医者のキャリアの「新・勝ち組」ルートという記事も面白い。
地位、収入、自由、やりがいの4つの要素から検証している。大学病院の勤務医、一般病院の勤務医、開業医、医師起業家、フリーランス医師など、医師のキャリアは多様化しているという。
「格上」である大学医局などのブラック職場で耐え忍び、出世を目指すという従来の価値観が崩れてきたというのだ。
東京大学医学部の卒業生の中には、卒業後に臨床医にすらならず、コンサルティング会社へ新卒入社する人も出てきたという。SNSの浸透で、自由な選択が医師にも広がってきたことは知っておいていいだろう。
国内の金価格が過去最高値に
「週刊エコノミスト」(2023年6月6日号)の特集は、「上がる金&揺らぐドル」。史上最高高値圏で推移するドル建ての金価格。その背景を探ると、基軸通貨ドルを巡る変化があるという。
金の国内価格が高騰している。国内地金商最大手の田中貴金属工業が販売する金の小売価格は5月10日時点で、1グラム当たり9794円と過去最高値を付けた。日本取引所グループ(JPX)の大阪取引所で取引される金の先物価格も4月下旬以降、連日のように最高値の更新を続けているという。
世界的に金価格は高値圏にある。国際的な指標価格である米ニューヨーク金先物は5月4日、一時1トロイオンス=2085.4ドルを付けた。20年8月7日の史上最高値2089.2ドルまであと一息だった。
なぜ今、世界的に金価格が上昇しているのか。
背景として、昨春からある「異変」が起きているという。金価格は長く、米実質金利と逆相関していたが、その関係が崩れたというのだ。つまり、金利が上昇すると、金価格も上がり始めたという。
その理由の1つとして、中国、ロシアなどの中央銀行による金買いを挙げている。
きっかけになったのが、昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けた西側諸国の対露経済制裁だ。ドルへの過度な依存を避けたいという国がじわりと動き出し、それが金価格の上昇として表れているという。
◆金への投資の仕方とは?
金に投資する方法も説明している。主に現物、ETF(上場投資信託)、投資信託がある。
金現物の場合は盗難リスクもあるので、貴金属商などに保管してもらうこともできるが、保管料がかかる。毎月一定額で現物を購入して積み立てる「純金積立」という方法もある。
ETFは株式と同じように売買できる。東証には現在、5本の金ETFが上場しており、ロンドンの金地金価格など対象指標を設定して、その指標と連動するように運用されている。
さらに、金価格に連動する成果を目指す投資信託も販売されている。ETFや投資信託は小口で投資可能なうえ、投資信託は積み立て投資にも向いている。
短期的な投資ではなく、ポートフォリオの一部として、金融商品のヘッジ手段として、金を組み込んでおくことを勧めている。
このほか、基軸通貨ドルの未来を論じ、「日本が人民元決済を迫られる日が来るかもしれない」という中北徹・東洋大学名誉教授のリポートなど、人民元取引が広がり始めたことを示す記事に注目した。(渡辺淳悦)