キヤノンの株価が連日、年初来高値を更新した。2023年5月29日の東京株式市場では前週末終値比77円(2.2%)高の3550円まで上昇して2018年10月以来、4年7か月ぶりの高値となった。
日本の株式市場全体としても足元で上昇している中、業績堅調なキヤノンの株主還元と積極投資を両立させる姿勢がひときわ見直されているようだ。
自社株買いは2022年にも2回実施...2年間で計1500億円 将来の株式交換によるM&Aなどに活用
キヤノンは5月17日に最大500億円の自社株買いを発表した。自己株式を除く発行済み株式総数の1.8%にあたる1800万株を上限に取得する。自社株買いは2022年にも2回実施しており、2年間で計1500億円に及ぶ。自社株は将来の株式交換によるM&Aにも活用する。
一方、ネットワーク(遠隔監視)カメラや動画コンテンツを作る業務用映像制作機器、次世代CT(コンピューター断層撮影)装置といった成長が見込める事業に積極投資する姿勢についても、中期経営計画などを通して発信した。
こうした株主還元と、成長への積極投資をどちらも追求する点が好感されている。
ここでキヤノンの事業分野を確認しておこう。主力はオフィス向け複合機、レーザープリンター、インクジェットプリンター、イメージスキャナーなどの「プリンティング」。
そのほか、レンズ交換式デジタルカメラ、交換レンズ、ネットワークカメラ、放送機器、プロジェクターなどの「イメージング」。
CT装置や超音波診断装置、MRI(磁気共鳴画像)装置などの「メディカル」、半導体露光装置やFPD(フラットパネルディスプレイ)露光装置、有機ELディスプレイ製造装置などの「インダストリアル」がある。
世界シェア首位の事務機は市場縮小 事務機の収益力を生かし、成長分野に投資する戦略
2022年12月期の全体の売上高に占める割合はプリンティングが55.9%、イメージングが19.9%、メディカルが12.7%、インダストリアルが8.0%となっており、圧倒的にプリンティングの存在感が大きい。
ちなみに、全体の海外売上高比率は2022年12月期で76.4%に及ぶグローバル企業だ。
キヤノンの事務機の世界シェアは、2022年に18%程度で首位。事務機のシェア上位にはリコーやコニカミノルタ、京セラなど日本メーカーがずらりと並び、日本勢の牙城ではある。
だが、世界的なペーパーレス化の波が押し寄せていることもあって、長期的な趨勢としては市場が縮んでいる。
こうした中、リコーと東芝が事務機生産部門の統合で合意する動きも起きている。
そのため、事務機の収益力を生かして成長分野に投資するというのが、近年のキヤノンの戦略だ。
キヤノンの足元の業績は堅調だ。
4月26日に発表した2023年1~3月期連結決算は、オフィス向け複合機の供給不足からの回復が進んだことや、ミラーレスカメラの新製品が好調なことなどから増収増益。
これを受けて決算発表に併せて2023年12月期連結決算の業績予想を売上高、各利益ともに上方修正した。
キヤノンの株価はこの1~3月期決算と通期上方修正を受けて急伸した後、自社株買いでさらに一段高となったかたちだ。(ジャーナリスト 済田経夫)