ソニーグループ(ソニーG)が金融事業を手がける子会社のソニーフィナンシャルグループ(ソニーFG)の分離に動いた。2~3年後の実施を目指す。
分離後もグループ間での連携を続けられるよう社名やサービスには「ソニー」のブランドを残し、株式の20%弱の保有を続けるというが、2020年に4000億円を投じて完全子会社化したばかりだった。
状況がどう変わり、何を狙っての分離なのか。
事業の分離・独立にあたり、譲渡益に対する課税が軽減...「パーシャルスピンオフ制度」活用か
2023年5月18日の経営方針説明会で発表した。
詳細は未定だが、企業が子会社や事業を分離・独立させる「スピンオフ」にあたって、譲渡益に対する課税が軽減される制度を活用する。
2023年度の税制改正で「パーシャルスピンオフ制度」が導入され、減税要件を従来の完全分離から株式保有20%未満に引き下げた。事業再編を後押しし、経営の効率化を進める狙いで、ソニーGは、これを活用したい考えだ。
これまでの経緯を振り返ると、J-CASTニュースは「ソニーが『物言う株主』へ示した『答え』 社名変更が意味するコト」(2020年6月03日)で報じたように、2020年のソニーFG(当時はソニーフィナンシャルホールディングス=SFH)の完全子会社化は「ソニー」から「ソニーG」への社名変更とセットの、組織の抜本再編の要だった。
SFHは1979年に参入した生命保険を出発点に、損害保険や銀行などにも手を広げた。2020年時点でソニーGが65%の株を持つ上場子会社だったが、9月、株式公開買い付け(TOB)により、約4000億円を投じて残る35%の株を買い取り、100%子会社にした。
完全子会社化の目的は、当時、2つの面で説明された。
1つが収益面だった。純利益を年間400億~500億円押し上げる効果があり、新型コロナウイルス禍に伴う経済活動のストップといった外部環境の影響を受けやすい製造業やエンタメに対し、金融事業は収益的に安定していてリスク分散の効果があるとされた。
もう1つは、他の事業とのシナジー(相乗効果)だ。ソニーGの収益はゲーム、音楽、映画のエンターテインメント(エンタメ)事業がほぼ半分を稼ぎ出し、エレキ、半導体関連、そして金融が各15~20%を占める。
20年の当時は、「フィンテック」、つまり、金融とITの融合の狙いが語られた。
スマートフォンの普及をベースに、キャッシュレス決済などが拡大。そうした事業環境を踏まえ、個人データを与信や融資などの金融事業に活用する動きが強まりっていることから、SFHにエレクトロニクスなどの技術をいかに活用していくかが、ソニーの今後の成長に大きな影響を与えるという見立てだった。
金融事業は「中核事業」だったが...「金融とITの融合」の目的では3年前とは状況が変化
今回、3年前の方針を転換したことについて、十時裕樹社長兼最高財務責任者(CFO)は5月28日の説明会で、「2020年のものは『親子上場の解消』が目的であり、ガバナンスと経営力の強化が目的だった。その目的が果たされたので、別の考え方も出てくる」と説明。
くわえて、「さらに中長期的な成長、拡大を志向していくには、これまでとは違う次元の投資が必要になってくる。(金融と)エンタメ・半導体の投資を両立することは容易ではない」と強調した。
収益面では、金融事業の23年3月期の営業利益は2239億円と、ソニーGの連結全体の2割弱を占める。ウェートとしては堂々たる「中核事業」だ。
一方、シナジーについては、スタンスが変わってきていた。
2023年4月、ソニーG本体にあった研究開発機能の大部分を各事業会社に移管するなど、それぞれの事業が頑張って稼ぐということだ。
これは、各事業の競争力を磨くために、限られた資金をどう生かすか、ということでもある。実際に、エンタメと、CMOSイメージセンサーを中心にした半導体事業に、2018~22年度に、それぞれ1兆円以上を投じてきた。
他方、金融事業もITシステムなどに継続的に投資しなければならないし、財務健全性も求められる。そこで、分離・上場して独自に資金調達し、財務基盤を強めて成長を目指すのが合理的と判断したということだ。
ソニーG、24年3月期は純利益8400億円(10.4%減)見込む 新体制下で、新たな成長軌道どう描く?
ソニーGの2023年3月期決算(国際会計基準、4月28日発表)は、売上高が前年比16.3%増の11兆5398億円、本業のもうけを示す営業利益が同0.5%増の1兆2082億円、純利益が同6.2%増の9371億円となり、売上高と営業利益は過去最高を記録した。
24年3月期は、売上高11兆5000億円(前期比0.3%減)、営業利益1兆1700億円(同3.2%減)、純利益8400億円(同10.4%減)を見込む。
減価償却費や研究開発費の増加、為替の悪影響などが減益要因になると見込むが、ここから、新たな成長軌道をいかに描いていくか。
事業の見直し、再編には長年苦労し、今や勝ち組と評されるソニーG。23年4月にスタートした、吉田憲一郎会長兼最高経営責任者(CEO)と十時社長による新体制の今後のかじ取りから、目が離せない。(ジャーナリスト 済田経夫)