3万1000円突破!急騰する日本株に落とし穴は? エコノミストが指摘「6月株主総会、9月中間決算に注意せよ。海外勢の逃げ足は速い」

全国の工務店を掲載し、最も多くの地域密着型工務店を紹介しています

   日本株上昇が止まらない。2023年5月30日の東京株式市場で日経平均株価は4日続伸、終値は前日比94円62銭高の3万1328円16銭だった。バブル崩壊後の高値を連日更新している。

   米経済メディア「ブルームバーグ」(5月30日付)が、岸田文雄首相が長男の秘書官更迭を決めたことさえ、「支持率低下に反応したとみられ、解散総選挙への期待が高まる」と株式市場の好感を伝えるありさまだ。

   しかし、「お祭り騒ぎ」いつまで続くのか。「死角」や「落とし穴」はないのか。エコノミストの分析を読み解くと、6月と9月に大波乱が起こりそうだが......。

  • 日本株はどこまで上昇するのか(写真はイメージ)
    日本株はどこまで上昇するのか(写真はイメージ)
  • 日本株はどこまで上昇するのか(写真はイメージ)

日本株に好材料ラッシュだが、日本企業と政府が慢心すると...

   こうした日本株上昇の背景をエコノミストはどうみているのか。

   ヤフーニュースコメント欄では、日本総合研究所上席主任研究員の石川智久氏が、次のように背景を解説している。

「これまでの景気回復期待や東証におけるプライム市場改革姿勢などの動きがあったほか、最近では(1)ウォーレン・バフェット氏の日本株への前向き姿勢、(2)日銀の金融緩和持続示唆、(3)海外半導体大手の日本への投資拡大意向、(4)円安を背景に、割安とみた外国人投資家の買い、(5)米国の債務上限引き上げ合意などの好材料が重なった結果とみられます」

   そのうえで、

「一方で、最近の上昇が急激でもあるので、そろそろ小休止のタイミングを気にする必要がある局面となってきました。いったん調整したあとに、再度上昇するかが注目点です。企業においても株高に慢心することなく、市場から好感される企業戦略を示していく必要があります。また、政府においても、株式市場が好感するような予算を編成していくことが重要です。骨太の方針などで何を打ち出すかが注目されます」

   と、企業側と政府側に、今後の成長戦略構築を求めた。

東京証券取引所株価ボード
東京証券取引所株価ボード

   同欄では、三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員の小林真一郎氏も、

「企業業績の改善、コロナ禍の終息に向けての期待感などを背景とした上昇トレンドに、米債務上限の合意、米株高、円安などの好条件が加わったことで、最近の株高の流れに、さらに弾みがつきました。ここまでの上昇ペースが速いため、今後、一時的に調整局面入りすることもありそうですが、業績改善や需要回復への期待は根強く、再度バブル後高値を更新する可能性が高そうです」

   と指摘。今後の展開については、

「一方、円安は現時点では輸出関連株を中心に相場の押し上げ材料となっていますが、急速な円安は輸入物価の上昇によるコスト高により、企業業績の回復を阻害することになりかねません。また、円安を阻止するため金融政策の修正の思惑が高まる可能性があり、この場合にも株価上昇の抑制要因となりそうです」

   と、円安の動向に注意を呼びかけた。

長男の首相秘書官を更迭、解散モードに入った(?)岸田文雄首相
長男の首相秘書官を更迭、解散モードに入った(?)岸田文雄首相

   また、同欄では、第一生命経済研究所主席エコノミストの藤代宏一氏が、日本株価上昇を牽引する海外投資家を取りあげた。

「2023年になって日本株が海外投資家から選好されている理由としては、まず何と言っても国内景気の安定感があるでしょう。日本はコロナ禍からの経済再開が欧米対比で約2年遅れたので、今年になって漸く『ペントアップデマンド』が発現した形です。ペントアップデマンドとは『先送りされた需要』です」

   と説明。そして、

「欧米経済がペントアップデマンドをとっくに消化し息切れ感があるのに対して、日本は余力が豊富にあり、GDPの約6割を占める個人消費は堅調に推移しています。速報性に優れた指標から判断すると、5月もその勢いは衰えていません。
また、インフレの混乱が欧米対比で小さいことも魅力の一つでしょう。インフレ退治に苦慮する米国は、果敢な利上げの結果、地銀の連鎖破綻を招くなど副反応が大きくみられています。他方、緩和を続ける日本ではそうした事象は発生しておらず、投資家としては安心感があります」

   と、海外投資家にとって、日本株の魅力はまだ続くとした。

海外勢の主力は欧州、伸びが著しいアジア、北米は低調

日本経済はどうなる?(写真はイメージ)
日本経済はどうなる?(写真はイメージ)

   ところで、その海外投資家とは、具体的にどういう国々の投資家なのか。

   三井住友DSアセットマネジメントのチーフマーケットストラテジスト市川雅浩氏によると、欧州勢が中心で、近年、アジア勢の伸びてきているという。

   市川氏のリポート「海外投資家の地域別日本株売買状況」(5月25日付)のなかの年間の地域別日本株売買シェアの推移を見ると、欧州勢が最大の売買シェアを占めていることがわかる【図表1】。

(図表1)年間の地域別売買シェアの推移(三井住友DSアセットマネジメントの作成)
(図表1)年間の地域別売買シェアの推移(三井住友DSアセットマネジメントの作成)

   市川氏はこう説明する。

「欧州のシェアは、2013年が59.4%でしたが、2022年には74.5%に達しており、この10年で緩やかながらも増加傾向にあります。また、アジアについても、シェアは2013年の9.4%から2022年は17.1%に増加しています。一方、北米のシェアは、2013年の30.8%から2022年は7.9%に減少しており、近年ではアジアを下回っています」

   近年では、アジアの投資家の存在感が高まっているのだ。一方で、直近の今年3月と4月の海外投資家の月間地域別売買状況のデータに目を向けると、主に欧州勢とアジア勢が買い越していることがわかる【図表2】。

(図表2)月間の地域別売買の状況(三井住友DSアセットマネジメントの作成)
(図表2)月間の地域別売買の状況(三井住友DSアセットマネジメントの作成)
「海外投資家は4月に現物株を約2兆2000億円買い越しました。買い越し額が2兆円を超えるのは、2017年10月以来、5年半ぶりのことで、海外投資家の買いが、新年度入り後の日本株上昇の大きな原動力になったと考えられます。地域別にみると、欧州が約1兆7000億円の買い越しと、最大の買い手だったことが分かります」

   こうしたことから、市川氏は今後をこう予想する。

「全体の売買金額の総計に着目すると、2013年は約670兆円でしたが、2022年は約1041兆円に増加しています。また、全体の売買金額も増加傾向にあることから、海外投資家は日本株の売買を増やしてきていると推測されます」

6月にピークの株主総会、9月中間決算に危険な落とし穴が...

日本とアメリカ(写真はイメージ)
日本とアメリカ(写真はイメージ)

   一方、「お祭り騒ぎ」に浮かれて「死角」はないのだろうか。

   現在の日本株上昇の流れを「長期」「中期」「短期」の変化から分析、警鐘を鳴らしているのが、りそなアセットマネジメントのチーフ・エコノミスト/チーフ・ストラテジスト黒瀬浩一氏だ。

   黒瀬氏はリポート「鳥瞰の眼 虫瞰の眼:日本株上昇の背景にある長期の構造変化、中期の循環的変化、短期の2つの期待を解剖する」(5月29日付)のなかで、(1)長期の構造変化、(2)中期の循環的変化、(3)短期の期待の3つに分けて、こう「解剖」している。

   (1)長期の構造変化:米中競合が激化する世界で、日本は米中の間に立つことで「位置取り」に成功した。経営学では、たとえば駅前立地なら何をやろうとビジネスが成り立つというように「位置取り」を重視する。

   近年の半導体分野での対日直接投資の活発化に見られるように、日本は経済安全保障を理由とするサプライチェーンの組み換えで、半導体産業復活という非常に優位な「位置」を取った。

   (2)中期の循環的変化:米国の景気後退への警戒感が世界にあり、2022年以降の世界の株式相場を見ると、米国だけが不振だ【図表3】。これまで日本は、米国が景気後退になると、それ以上に深刻な景気後退に陥った。

   しかし、経済再開、インバウンド、自動車の挽回生産などで、日本が道連れにならない可能性が高まっており、外国人投資家の間で「This time is different」(今度は違うぞ)と言われている。

(図表3)主要国株価指数の推移(りそなアセットマネジメントの作成)
(図表3)主要国株価指数の推移(りそなアセットマネジメントの作成)

   (3)短期的な2つの期待が株価を支えている:1つは、高い賃上げが実現したことで、賃金と物価の好循環が実現する可能性が高いという期待を背景に、日本株に資金流入した。しかし、賃上げが生産性上昇に結びつかなければ、賃上げによるコスト増加で2024年3月期決算は減益となる。そうなると、海外投資家は賃下げを要求するだろう。

   もう1つは、東証のPBR(株価純資産倍率)改善要請から来る自社株買いなど株主還元への期待だ。株主還元への期待は、株主総会が集中する5、6月にかけてピークを迎える。しかし、脱炭素、経済安全保障への備えなど多大な費用が必要な現在、PBR引き上げのための株主還元が正しい選択なのか甚だ疑問だ。

   脱炭素だけでも官民で150兆円の投資が必要だ。相当数の短期筋の外国人投資家は、株主還元の発表で株価が吹き上げた局面で売却するだろう。短期筋の投資家を儲けさせたところで、会社そのものは何も変わらない。

   そして、黒瀬氏は今後の日本株の動きについてこう警告している。

「中期的な景気動向には米国の来るべき景気後退の深さと長さに関して不確実性が残り、短期的には9月中間決算と6月の株主総会までの株主還元で、2つの期待が実現するのか、期待外れになるのかが見えてくる。短期筋の資金は逃げ足が速い。株価が急騰した後だけに、注意が必要だろう」

(福田和郎)

姉妹サイト