地球温暖化対策として、CO2(二酸化炭素)を排出しない「水素」が注目されている。
政府は、水素の需要拡大に伴い、2030年には大幅な供給不足を予想しており、その対策としてオーストラリアで未利用の褐炭から水素を製造。製造した水素を液体水素運搬船で日本に運ぶ計画を打ち出している。
その担い手が、川崎重工業だ。2022年4月に、「世界初の液化水素による水素の大規模輸送に成功」が伝えられている。
政府、「水素基本戦略」の改定へ 脱炭素化で期待高まる「水素」
政府は2023年4月4日に開催した「第3回 再生エネルギー水素等関連閣僚会議」で、脱炭素の本命と見られる「水素」について、2017年に策定した「水素基本戦略」を5月末をめどに改定することを表明している。
改正の主なポイントは、2040年の水素の利用量を1200万トン程度に引き上げることや、大規模かつ強靭なサプライチェーンの構築、拠点形成に向けた支援制度の整備をあげている。
また、事業者から挙げられた課題として、国内外の大規模な水素製造や輸送に関するインフラの構築や製造輸送に要するコストの支援もある。
たとえば、「未利用の褐炭」は、乾燥すると自然発火する恐れがあるため、利用に適さないのだが、それを使えるように製造するには相応のコストが必要になるというわけだ。
液化水素サプライチェーン商用化実証が進む
そうしたなか、日本水素エネルギー株式会社(=JSE、2024年度から川崎重工業の持分法適用子会社となる予定/代表取締役の原田英一氏は、川崎重工業 常務執行役員・水素戦略本部長)は、クリーン・イノベーション基金を使って、「液化水素サプライチェーン商用化実証」、「水素液化向け大型高効率機器の開発」に取り組んでいる。
経産省の「エネルギー構造転換分野ワーキンググループ」(第14回)で使われた資料のうち、「JSE 2050年までの事業戦略・事業計画(1)」の中に、液化水素の運搬船に関する記載がある。
そこでは、2030年までの第1段階として、水素運搬船1隻(1タンク利用)を商用化実証。31年からの第2段階(商用化第1ステージ)には、実証場所の増設部分で水素タンク(4万立方メートル×4基)を2隻、商用化。
さらに33年からの第3段階(商用化第2ステージ)で、水素タンク(4万立方メートル×4基)を4隻規模で商用化し、2050年まで(商用化複数チェーンの部分)では、水素タンク(4万立方メートル×4基)を80隻規模で保有することを想定している。
ちなみに、クリーン・イノベーション基金は「経済と環境の好循環」を作っていく「グリーン成長戦略」に向けて、実行計画を策定している重要分野のうち、とくに政策効果が大きく社会実装までを見据えて長期間の取り組みが必要な領域で具体的な目標とその達成に向けた取り組みへのコミットメントを示す企業を対象に、10年間、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援していく事業をいう。
水素は「マイナス253度」で効率よく輸送できる
JSEと歩みをともにする川崎重工グループでは、2030年に目指す将来像として、グループビジョン2030 「次の社会へ、信頼のこたえを ~Trustworthy Solutions for the Future~」を制定。将来ビジョンを宣言している。
同社は、今後注力するフィールドを「安全安心リモート社会」、「近未来モビリティ」、「エネルギー・環境ソリューション」とし、変化に合わせてより成長できる事業体制への変革を目指している。 「Kawasaki Hydrogen Road」では、水素を「つくる」、「はこぶ・ためる」、「つかう」に分け、「はこぶ・ためる」の部分で、こう説明している。
「水素はマイナス253度の極低温にすることで、気体(GH2)から液体(LH2)に変わり、体積が800分の1に減少。液化水素による水素の輸送は、数ある方法の中で極めて効率がよく、すでに実用化された技術です」
そこには長年、マイナス162度になる液化天然ガス(LNG)の運搬船、受入基地や極低温の液化水素の貯槽を世に送り出してきた「Kawasaki」の実績が活かされていると、液体水素への取り組みと液化水素の運搬船の必要性を紹介している。
会社四季報の最新銘柄レポート(2023年5月17日号)によると、「川崎重工業」のPBR(株価純資産倍率)は0.80倍(重工業界の平均は1.13倍)と、東京証券取引所が求めている「PBR1倍」を下回っている。
東証は、2023年3月、上場企業の企業価値を高める基盤をつくることを目的に、PBRが低迷する上場企業に対して改善策を開示・実行するよう要請。その目安を「1倍」とした。
一般に、PBRが「1倍」を下回る場合、その企業の価値よりも安い値段で株式を買えることになるので、「割安である」と考えることができる。川崎重工も、これに当たる。
そんな同社の事業構成は、モーターサイクルが30%、航空宇宙20%、エネルギーマリンが20%、精密ロボット17%に加えて車両が8%とバランスがとれている。
航空機部門では今期以降にボーイング787の増産が期待でき、強化中の産業用ロボットでは手術支援など医療分野にも進出。エネルギーマリンでは、今後の水素利用拡大に伴う、液化水素の大型運搬船の売り上げ貢献も期待できる。
5月10日の決算発表を受けて、同社の株価は終値で110円安の2784円だった。減益や減配見通しを嫌気した結果だ。5月10日から13日までの3日間で231円の下落となったが、中長期的に企業業績は問題ないとみているので、安値での買いを考えている。
川崎重工の株価の推移を10年の長期チャートでみると、「2000円~2500円」が、買い値としては妥当と考えているので、まずは年初来安値の2671円あたりからのナンピン買いでスタートできればと考えている。(石井治彦)
【川崎重工業(7012)】
年初来高値 2023年5月29日●3200円
年初来安値 2023年3月16日●2671円
直近 終値 2023年5月29日●3135円