「今どき夫が妻子を養うなんてアリ?」。専業主婦の妻にフルタイムで働いてほしいと願う男性の投稿が、話題を呼んでいる。
子どもも大きくなったので、収入増のために共働きになりたいのだが、同居している妻の父親(義父)が「夫が妻子を養うもの」という「古風」な考え方の持ち主で、妻に働くことを許さないのだ。
妻も義父に同調、節約一辺倒で男性の小遣いを切り詰めるありさま。しかし、男性は義父の援助で家を建てたため、頭が上がらず何も言えない。
「義父にお金を返してから文句を言え」「イマドキのせいにするな。あなたの器が小さいから」。男性に対する風当たりは強い。妻に働いてもらうには、どうする? 専門家に聞いた。
義父が主張する「夫が妻子を養うもの」という考えの人は、たった4%!?
<「イマドキ夫が妻子を養うなんてアリ?」専業主婦の妻に共働き拒否された男性の投稿が炎上! 同居の義父に「家購入」援助されたことが仇に...専門家に聞いた(1)>の続きです。
――まず、今回の論争の中心となっている話題に見える「夫が妻子を養うべきかどうか」という点について、川上さんが研究顧問をされている、働く主婦層の本音を調べる機関「しゅふJOB総研で調査したことがありますか。
川上敬太郎さん「仕事と家庭の両立を希望する主婦層に対し、2013年、2017年、2020年と、過去3回にわたって10年後の未来に増えそうな夫婦のワークスタイルについて尋ねたことがあります。
◇10年後の日本、仕事と家庭の両立を希望する主婦はどう見ているか?
すると、3回ともダントツで1位だったのは『夫婦対等に共働き』でした。過去3回の変遷を見ると減少してきてはいるものの、直近の2020年調査でも約6割の人がそう答えています。次に多いのが『夫が中心となって働き、妻は補助的に働く』で、約3割でした。
『夫婦対等に共働き』が2013年には約8割いたのに、減ってきている理由は、共働き世帯が増えているのに、妻の家事・育児負担があまり緩和されないことへの失望が大きな要因と考えられます。
フリーコメントでも、『家事負担がまだ高い』『女性には担う役割が多すぎる』『(10年後は)女性が疲弊する世の中になると思う』といった悲痛な声が寄せられました」
――「夫が妻子を養うべきかどうか」という点では、いかがでしたか。
川上敬太郎さん「『夫が働き、妻は専業主婦』は約4%しかいませんでした。こちらは、過去3回の調査でも一貫して5%以下です。世の中の流れとしては、専業主婦家庭よりも、夫婦対等に共働き家庭が増える――そう認識している人が多い様子がうかがえます。投稿者さんの義父が主張している『夫が妻子を養うもの』という考え方は、少なくなっていく傾向にあります」
男性と妻では「身の丈に合った生活」のイメージがずれている
――論争にバックには、その義父の大きな存在があります。投稿者によると、義父は自分の娘(投稿者の妻)に働くことを許さないばかりか、「女は大学に進まず、早く結婚したほうがいい」という、「古風」な」考えの持ち主だと言います。
川上敬太郎さん「かつて、『夫が妻子を養うもの』という考え方が主流だった時代があり、その考え方が社会システムとマッチしていた頃は、その良し悪しは別として、上手く機能していたのだと思います。そのため、いまも同様の考え方を持っている人は少なくないのかもしれません。
ただ、それは夫である男性が妻である女性や子どもを養うという、性別役割分業の考え方です。家事や育児は妻である女性が行う、という考え方と表裏一体の関係でもあります。本来、仕事や家事育児の能力と性別は無関係です。性別に応じて家庭内や社会での役割を決めつける考え方は不自然であり、時代の変化とともに、どんどん合わなくなってきています。
また、いまや大学進学率では男女の間に大きな差はありません。女性だから大学に進まなくてよいとか、早く結婚したほうがいいという考え方もまた性別による不当な決めつけだと感じます」
――義父の考え方に染まっているのか、投稿者の妻は働こうとしません。「身の丈にあった生活で十分」と、貯蓄ばかり増やすことを考え、収入を増やすことを考えないと、投稿者は嘆いていますが、妻の考え方についてどう思いますか。
川上敬太郎さん「性別に関わらず、働きたいと思う人もいれば、思わない人もいます。ただ働こうとしないことだけを踏まえて、その良し悪しを判断することはできません。また、投稿者さんが働いて得た収入で、毎年300万円の貯金ができているようなので、必ずしも妻が働かなければ生活が成り立たないという状態でもなさそうです。
一方、『身の丈にあった生活』で十分かどうかも、『身の丈にあった生活』がどんな水準なのかは、人それぞれで感じ方が異なるものです。『身の丈にあった生活で十分』という考え方が間違っているというよりは、投稿者さんと妻とでは、生活水準のイメージが異なっている、ということではないでしょうか」
「ナゼ妻はそんなに貯金をするのか、その謎を解き明かそう」
――義父の古い考え方や、妻が投稿者の収入に全面的に頼りながら小遣い制(月3万円)にしたり、貯蓄額を教えなかったりする態度は「義父のモラハラ」「妻のモラハラ」だという意見があります。
川上敬太郎さん「ハラスメントは受け手側がどう感じるかを軸にして判断されるだけに、投稿者さんからすればモラハラと言えるかもしれません。いずれにせよ、投稿者さんが現状に納得しておらず、ストレスを溜めていることは間違いないと思います」
――しかし、一番多いのは投稿者に対する批判。「トラブルの原因は、あなたの器が小さいから」「なぜ、義父にはっきり主張しないのか」「義父の援助で住居費だけもかなり楽な生活をしてわけだから、まず、そのお金を返してから文句を言え」といった意見です。
川上敬太郎さん「器が小さいかどうかは、何を基準にするかによって変わってくるので一概には言えませんが、そのように言われてしまう背景として、投稿者さんがご自身の主張だけを繰り返しているように見えることが関係しているように思います。
『イマドキ夫が妻子を養うなんて無理』『妻は給与の半分を貯金に回している』『義父は夫が妻子を養うものだと考えている』など、それぞれ不満に感じてしまうのは仕方ないとしても、『ナゼ妻はそんなに貯金をするのか』『ナゼ義父は夫が妻子を養うものと考えているのか』といった、相手側の考え方も理解して歩み寄ろうとするスタンスが残念ながら見受けられません。
そんな、不満だけを述べ続ける投稿者さんのスタンスが、回答者の方々には器の小ささとして映ってしまっているのではないでしょうか。『なぜ義父にはっきり主張しないのか』『義父に出してもらったお金を返してから文句を言え』といった声も、ご自身のスタンスを顧みることなく、ただ相手への不満だけを述べ続けている印象が少なからず影響しているように感じます」
「大切なことは、夫婦の幸せにとって何が最適かということ」
――さらに、妻に「フルタイムで働いてほしい」と高望みしすぎている。まだ、日本では夫婦共働きに制約が多い。まずは、パートタイムを望んではどうか。そんなにお金がほしいのか......。そんな批判も多かったです。
川上敬太郎さん「妻には妻の価値観や考えがあるはずです。フルタイムで働くかパートで働くかはもちろん、そもそも働くのか否かも含めて、投稿者さんご夫婦にとって最適なバランスを見つけられれば、それでよいのだと思います。
――「イマドキ」のせいにするな、という意見も目立ちました。たとえば、「イマドキの夫婦は妻が働いている、というが、イマドキの夫婦は家を建てるときに実家の援助を得られるわけではない」「イマドキの夫は、しっかり家事育児を担っている。あなたはどうか」といった意見が代表的です。
川上敬太郎さん「イマドキか否かに関わらず、大切なことは投稿者さんご夫妻にとって何が最適かだと思います。もし、夫婦のどちらかが家計の全額を稼ぎ、かつ家事も育児もすべてこなしていて、もう片方は仕事も家事も育児もしていないとしても、それでご夫婦がともに納得し幸せを感じているのであれば、何も問題はないはずです。
家計収入の獲得と家事育児との最適なバランスのあり方は決して1つだけではなく、ご夫婦の数だけ存在します。投稿者さんご夫婦の最大の問題は、その最適なバランスが見つけられていないことだと思います」
このあとも、川上さんのアドバイスが白熱します――。<「イマドキ夫が妻子を養うなんてアリ?」専業主婦の妻に共働き拒否された男性の投稿が炎上! 同居の義父に「家購入」援助されたことが仇に...専門家に聞いた(3)>にまだまだ続きます。
(福田和郎)