自宅などでモノ作りを教える、「自宅教室」は、コロナ禍において、急成長した教室と、廃業寸前まで追い込まれた教室に二極化したという。
本書「自宅教室の集客マインド好転バイブル」(合同フォレスト)は、ノウハウよりもマインドが大事だと説く、異色の自己啓発本である。
「自宅教室の集客マインド好転バイブル」(高橋貴子著)合同フォレスト
著者の高橋貴子さんは、2011年に横浜市で、7つの天然酵母を楽しむパン教室「アトリエリブラ」を開業。2014年にパン教室ネット集客の実績をもとに自宅教室開業・集客のコンサルティングを開始。株式会社LibraCreation代表取締役。
事業がうまくいかない人に共通する「言葉の癖」
自宅教室業界を15年以上見てきて、かつ5000人以上の教室の先生の相談に乗ってきた結論が、「ノウハウを学ぶよりもマインドを整えることが先」ということだった。特に女性の場合はマインドが事業の成長を左右することを実感するそうだ。それが顕著に現れたのがコロナ禍だという。
事業がうまくいっていない人に共通するのは、「言葉の癖」だ、と最初に説いている。「うまくいくかどうか自信がないんです」という人は要注意だ。他力本願と自信のなさが表れているからだ。
副題が「年商1000万円をラクに稼ぐ45のレッスン」。女性経営者の中には「稼ぐことへの無意識のブロック」がある、と指摘する。値上げしたらお客さんがいなくなるのでは、などと心配する前に、行動することが大切だという。
ノウハウコレクターの落とし穴
ノウハウさえ身につければ集客がうまくいくと思っている人たちがいるという。
特に、SNS集客関連のノウハウを集めたがる人。勉強を繰り返した結果、なんとなく前に進んでいるように錯覚し、行動しない。このタイプの人の処方箋として、「本当に仕事としてやりたいのか」を自分に問いかけてみることを勧めている。
唯一の手段は「実践」だ。教室開業したての人で挫折してしまう大きな原因は、「行動していない」ことにあるという。
次に、レッスン料金の値上げは、その教室が「次のステージ」にいけるかどうかの、大きなステップだと意味づけている。値上げできない先生に共通するのは「いい人に見られたい」「嫌われたくない」という感情だと指摘する。
会社員時代にさまざまな業界を経験した高橋さんは、教室業界のレッスン価格は低すぎると考えている。「趣味レベル」から派生したという歴史的な背景はあるにせよ、適正価格にすることを提案している。
生徒が離れるという恐怖と売上が下がるダメージを考えてしまうが、次のステージに向かうためのチャレンジと考えてほしい、と鼓舞する。そのためには、必要以上に「人に執着しないこと」。
それが、お金のマインドブロックを外すことにつながるという。
耳に痛いこともいろいろ書いている。たとえば、「好きなコトを仕事にするだけでは、事業はうまくいきにくい」とか、「お客様はあなたの夢を叶えるためにサービスを買うわけではない」。
さらに、「今まで集客できていたのは自力ではなく他力(口コミ・紹介)だったことを素直に受け止める必要がある」という言葉もショックかもしれない。
ビジネスの成功曲線は「二次曲線」つまり、放物線の形状を描く。しばらく低空飛行を続けて、ある時突然ブレークスルーポイントが訪れて、急激に右肩上がりになるので、「決してあきらめないこと」という言葉も支えになるだろう。
1つの動画から5か所に拡散
1つの行動で3つ以上の成果が得られるようにする工夫も興味深い。高橋さんのSNSのルーティンを紹介している。
・まずYouTube動画(約20分)を1本撮る
・その動画から文字起こしをしてブログを書く
・このブログが連続で届くメールマガジンとして配信スタンドにセットアップ
・一部抜粋の記事をFacebookページとGoogleビジネスプロフィール、LINEにも配信
つまり、1つの動画を作れば、5カ所に拡散できる仕組みを作っているのだ。
レバレッジを効かせるときに一番にポイントにしているのは「時間の圧縮」ということだ。ある分野のエキスパートになるためには1万時間が必要だと言われるが、「やりたいことを叶えるためには1万時間はいらない」という。そのためには、他力を借りる、習慣化することだという。
開業5年以内に売上が停滞する「踊り場」の時期が訪れる。その時の対処法を示している。
1 今までやってきた中でうまくいって、この先にやりたいことの優先順位をつける
2 今までやってきて、それほど成果が出ていないものは思い切って捨てる
3 自分の中ではあまり注目していなかった、芽が出そうな新規事業の準備をする
つまり、今までの活動の延長にその先の拡大はない、と考え、「踊り場」は、必要な小休止の時期だと受け止めることだ。
営業が苦手という人の思考には一つの特徴がある、とも。それは「お客様」というよりも「嫌われたくない自分」という内側に意識が向いているということだ。
自宅教室関係者だけでなく、広くビジネスパーソンに勧めたい本だ。(渡辺淳悦)
「自宅教室の集客マインド好転バイブル」
高橋貴子著
合同フォレスト
1760円(税込)