円は今年末までに、1ドル120円台まで巻き戻される?
第一生命経済研究所の藤代宏一氏と同様に、昨年の円安は米国側の要因だったが、現在の円安は日本側(日本銀行)の要因が背景にあると指摘するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏はリポート「1ドル140円が目前に:日銀の政策修正観測の後退で円安が進む。中期的には行き過ぎた円安の修正局面」(5月25日付)のなかでこう説明する。
「(昨年は『ドル独歩高』の様相だったが)足もとは、ドル高よりも円安の性格が強い。3月末以降、円は対ドルで6%程度下落しているが、ユーロは同時期に対ドルで1%程度しか下落していない」
「4月に就任した植田総裁が、予想外に政策修正に慎重な姿勢を見せたことで、早期の政策修正観測は一気に後退している。その結果、日米金利差拡大観測が再び強まるなか、円安ドル高傾向が為替市場で強まったのである」
そして、金融市場では6月か7月に、YCC見直しなどの政策修正が行われるとの観測が燻(くす)ぶっているが、仮に政策修正が見送られれば、円安が一気に進み、140円台半ばから後半まで上昇する可能性があるという。
その後は、どうなるのか。
現在の状態は、10年前に日本銀行が異次元の金融緩和に踏み切って以来、実質実効円レート(それぞれの国の通貨の実力に見合った為替レート)を下回る円安水準が続いているという。そして、実質実効円レート推移の【図表2】を示しながらこう説明する。
「他方で、年後半に入り、急速な金融引き締めと銀行の貸出抑制の影響から、企業部門を中心に米国経済が悪化、金融不安が再燃し、FRBの早期利下げ観測が強まれば、リスク回避傾向と日米金利差縮小観測が重なる形で、円が急速に巻き戻される可能性がある」
「(今年後半に)米国経済が本格的な景気後退に陥り、金融不安が顕著に広がる場合には、円は年末までに1ドル120円台まで巻き戻される、と見ておきたい」
「植田総裁のもとで、金融政策の修正が進めば、行き過ぎた円安も修正されていくと考えられる。この10年移動平均値を円の均衡水準と考えれば、ドル円レートの均衡水準は1ドル109円程度、となる計算だ【図表2】」
「植田総裁は早期の政策修正には慎重であるが、2024年後半以降には、副作用を軽減することを狙った『金融緩和の枠組み見直し』を相当進めていくことが予想される。その結果、向う数年を視野に入れれば、1ドル109円程度まで円高が進み、異例の金融緩和が作り出した、行き過ぎた円安が解消されていく、とみておきたい」
(福田和郎)