自宅で両親と一緒に倒れているのが見つかった歌舞伎俳優の市川猿之助さん。警視庁の任意の事情聴取に「両親と心中を図った」という趣旨の説明をしたと報じられています。
本業の歌舞伎だけでなく、テレビドラマやクイズ番組でも引っ張りだこだった「Kabuki actor」(歌舞伎アクター)の突然の出来事は、海外メディアでも話題に。「ダンスパフォーマンス」で、国際的な演劇賞にノミネートされた「Hanzawa Naoki actor」(半沢直樹アクター)をめぐる報道を追ってみました。
「ダンスパフォーマンス」で英国の賞にノミネート 仏通信社は「国際派」を強調
東京目黒区にある自宅のクローゼットの中で、意識を失いかけているような状態で発見された猿之助さん。当代随一の人気俳優が起こしたこの出来事に、海外メディアも注目。なかでも第一報を告げたフランスAFP通信の記事は、さまざまな言語に訳されて各国で報じられました。
Famed kabuki actor found collapsed, parents dead
(有名な歌舞伎役者が倒れているのを発見、両親は死亡:フランスAFP通信)
まずは、短い文章ながら、「famed」(有名な)、「collapsed」(倒れている)、「dead」(死亡)と、適格な単語を使って、状況をカンペキに伝えているタイトルに感心しました。
タイトルは端的ですが、記事では事件の様子や猿之助さんのことを詳しく紹介。「One of Japan's best-known kabuki actors」(日本で最も有名な歌舞伎役者の一人)である猿之助さんが、クローゼットの中で「drifting」な状態で見つかったと説明しています。「drifting」は(漂流する、漂う)という意味ですが、ここでは「意識がもうろうとしている」ことを表しているのでしょう。
発見時の猿之助さんの状態を、「unconscious」(意識がない)と表するメディアもありましたが、「drifting」の方が、意識がさまよっている状態をイメージできるので、グッドチョイスだと思いました。
さらに記事では、猿之助さんがアムステルダム、パリで歌舞伎公演をしたことや、イギリスでもっとも権威がある賞とされるローレンス・オリヴィエ賞にノミネートされたことなど、国際的に評価が高い役者であったことを、強調しています。
ローレンス・オリヴィエ賞は、優れた演劇やオペラに与えられる賞で、米国のトニー賞と並び称されているとか。歌舞伎公式ホームページ「歌舞伎 on the web」に掲載されている「歌舞伎俳優名鑑」では、06年6月の歌舞伎ロンドン公演『かさね』で、猿之助さんが「ベスト・ニュー・ダンス・プロダクション」にノミネートされたと伝えています。
歌舞伎が「dance performance」(ダンスパフォーマンス)というのは少々違和感がありますが、目の肥えた英国評論家に選ばれたという事実は説得力があり、世界中の人に猿之助さんの実力を伝える役目を見事に果たしています。
日本国内でも情報が限られ、まだ混乱しているなかで配信されたフランスAFPの記事。日本メディアの報道や公式ウエブサイトの情報を引用して「即席」で書いたものだと推測します。
それでも、ポイントを押さえたタイトルといい、「drifting」のように状況が頭に浮かぶ単語やインパクトある「事実」の引用といい、短い文章で読者のハートをグイっとつかむ良記事だと感心します。各国メディアがこの記事をこぞって「採用」した理由がわかる気がしました。