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SBIホールディングス、SBI新生銀を非上場化へ...公的資金返済に向けた「奇策」

   公的資金返済に向け、辣腕経営者が繰り出した一手は「奇策」だった。

   SBIホールディングス(HD)が、傘下のSBI新生銀行に株式公開買い付け(TOB)を実施し、非上場化する方針を決めたのだ。狙いはSBI新生銀が抱える約3500億円にのぼる公的資金の返済を加速することだという。

   だが、それにしてもなぜ、非上場化が公的資金返済につながるのだろうか。

  • SBI新生銀、非上場化へ(写真はイメージ)
    SBI新生銀、非上場化へ(写真はイメージ)
  • SBI新生銀、非上場化へ(写真はイメージ)

前身は日本長期信用銀行 計3700億円の公的資金、現在も大部分が未返済...業績と株価の低迷で

   SBIHDが2023年5月12日、SBI新生銀へのTOBを正式に発表した。

   同行の前身は、日本長期信用銀行。長銀は1990年代後半の金融危機で経営難に陥り、国は98~2000年に計3700億円の公的資金を注入した。その大部分は、現在も未返済のままだ。

   金融危機に伴う公的資金投入行のうち、返済が完了していないのは今や新生銀だけになった。理由は、新生銀の業績低迷だ。

   新生銀はスポンサーとなった米リップルウッド・ホールディングスのもと、消費者金融など消費者向け金融事業(コンシューマー事業)を柱に据える新たな経営方針を掲げたものの、過払い金問題などで表面化し計画が大きく狂った。

   その後も経営は上向かず、株価も低迷。しかも、その隙を付いてSBIHDが2022年、新生銀に敵対的TOBを仕掛け、結局、SBIHDの軍門に下った。

   この間の経緯は、 J-CAST 会社ウォッチが「SBIの周到なTOBに進退窮まった新生銀行 『ホワイトナイト』は現れるのか!?」(2021年9月19日付)、 「新生銀行のTOBが決着 SBI傘下で『第4のメガバンク』構想の柱に」(2021年12月8日付)で詳報した。

   SBIHDの狙いは「第4のメガバンク構想」で、提携・出資する地方銀行との「連合」に新生銀を加えることで、3メガバンクに対抗する――というものだ。

公的資金返済には、1株7450円は必要なのに...「事実上、不可能」の見方

   ただ、SBI新生銀の公的資金返済については、インターネット証券などを強みとするSBIHDの傘下に入っても、そのハードルはあまりに高い。

   国が注入した公的資金は普通株に転換され、国は現在も新生銀株の約23%を握る大株主だ。同じように公的資金注入を受けたりそなホールディングスの場合、国は保有するりそな株を売却した利益で、公的資金を回収。売却益は公的資金注入額を大きく上回り、国は多大な利益を得た。経営再建を軌道に乗せ、株価も上昇させて、国に利益をもたらしたかたちだ。

   これに対してSBI新生銀株は、株価が低迷したまま。国が保有する新生銀株をすべて売却して3500億円を確保するには1株7450円の株価が必要になる。にもかかわらず、現在の株価は2000円台で、開きはあまりに大きい。

   SBI新生銀は長く、株価を7450円以上に高めて、公的資金を返済する方針を掲げてきた。

   上場している以上、国という特定株主だけを優遇して、高値で自社株買いをするわけにはいかない。つまり、「株価7450円にするのは事実上、不可能」というのが市場の一致した見方。上場している限り、事実上、公的資金の返済もできないということになる。

株価と公的資金返済の関係をいったん「清算」する荒技...少数株主が割を食う?

   こうした状況を踏まえ、SBIHDが打ち出したのがSBI新生銀株をさらに買い増して、上場廃止にする手法だった。株価と公的資金返済の関係をいったん「清算」する荒技だ。

   SBIHDと国は2023年5月12日、TOB成立を前提にした契約を締結し、25年6月までに返済期間を含めた合意を目指すことで一致した。今回の上場廃止が、公的資金返済を動かすためのものだったことが分かる。

   今後は配当や利益剰余金を公的資金返済に当てるなどより柔軟な対応がとれる、としている。SBIHDの北尾吉孝会長兼社長は「(新生銀を上場廃止にすることで)経営の自由度が高まる。収益力も高まる」と自信満々だ。

   計画では、SBI新生銀のTOBの買い付け価格は1株2800円。取得額は1500億円超。5月15日に買い付けを開始しており、6月23日まで行う。成立すれば、SBIHDの新生銀株の保有割合は、国保有分を除く77%に達する。

   もちろん、買い付け価格は公的資金返済に向けた目標だった「7450円」の半分に満たないから、国はTOBに応じない。引き続き新生銀株を保有することで、SBIHD側と合意している。

   つまり、将来的に国は公的資金を毀損しないかたちで、返済を受けるということだ。具体的にどのように返済していくかは未定だが、国以外の少数株主だけが割を食う構図になりかねない。

   「保有株売却による公的資金返済が見込めない中、事態を前に動かすには新たな手が必要だった」。金融庁関係者は公的資金返済を優先するため上場廃止を容認するが、あまりに強引な手法は今後に禍根を残す恐れもある。(ジャーナリスト 白井俊郎)