「フィードバックが受けにくい」「学びの場が少ない」――。6月の株主総会シーズンを前に、人材サービスのWaris(東京都千代田区)が「女性役員の実態調査~現場の声から課題と女性役員増への示唆を探る~」を実施したところ、そんな「お悩み」が寄せられた。2023年5月16日の発表。
今年4月、政府は東証プライム市場に上場する企業に対して、2030年までに女性役員の割合を「30%以上」に増やすという新たな目標を掲げるなど、近年、企業の女性役員人材へのニーズは急激に高まっている。
そうしたなか、調査は「女性役員はどのような悩みや課題を抱えているのか」「何が女性役員の人材増加に寄与するのか」といった女性役員の現状や課題をあぶりだすことを目的とした。
初めて役員になったきっかけは?
調査によると、「初めて役員になったときのきっかけは何でしたか?」(複数回答)との問いに、70.3%の人が「会社からの直接の依頼・打診」と答え、最も多かった。
「個人的なつながりからの依頼・打診(知人・元同僚など)」が25.0%、「ご自身の希望」が10.9%、「人材紹介会社・ヘッドハンティング会社などからのスカウト」の7.8%と続いた。
また、「役員経験あり」と回答した人(n=64)を対象に、「役員の打診を受けたとき、ご自身としてはどのような反応をしましたか?」と聞くと、「快諾」したと答えた人が75%と多かった。
その一方で、「しぶしぶ受諾した」と答えた人は16%、「一度は断った」が3%。「ご指名いただいた理由・期待値をお聞きして承諾」や「しぶしぶではないが、自分にできるか少し考える時間を要した」「検討した」「自分の会社」などの「その他」は6%で、迷いながら決断したという声も20%を超えてあった。
さらに、「役員経験あり」と答えた人(n=64)に、役員の打診への反応への理由を聞いたところ、「快諾」した人からは、
「自分の今後のキャリアを考え、挑戦したいと考えたから」
「会社経営メンバーの一員となる経験は非常に貴重であり、かつ自身のスキルを活かせる機会となるため」
「内々示を受けた時点で自信あったわけではなかったが、期待されていることに対し会社に貢献したいという気持ちがあった」
「自分の仕事ぶりを評価していただいたことがうれしく、また経営陣の人柄もわかっていたので」
といった声があった。「しぶしぶ受諾した」人からは、
「自分のようなものでは力不足だと感じた。しかしお世話になった方からの推薦で他にも候補がいた中での強い希望と言われ、承った」
「重責を担える実力が自分にあるか非常に不安だったが、当時、社員たちに挑戦を説いていた立場上、断ることはできなかったから」
「職責がどこまであるかわからなかったため」
「業務執行希望だったため」
「自分には荷が重いと思ったが、その後ビジネススクールに通い、克服している最中」
「一度は断った」と答えた人は、
「1年先まで仕事がびっしりと入っていたため」
「大学院と家庭(子育て)と業務だけでも多忙の中、代表まで引き受けたらまわらなくなると思ったため」
などの声が寄せられた。
役員であることの理由「仕事内容に興味ややりがいを感じて」
「役員を初めて引き受ける際にネックになったこと、不安に感じたこと」(複数回答)を聞いたところ、「責任の増加」が45.3%、次いで「能力・経験が不足していると感じた」の28.1%が続いた。
「仕事の内容をイメージしにくい」(18.8%)や「報酬などの処遇と仕事量のバランス」(17.2%)、「ストレスが増えそう」(15.6%)といった不安があるようだ。【図1参照】
現在役員を担っている人に、その理由を聞いた(複数回答)ところ、「仕事内容に興味ややりがいを感じて」と答えた人は59.4%で最多。次いで「女性活躍に貢献したい」が51.6%、「経験を積みたい」が48.4%、「経験やスキルを活かしたい」が45.3%となった。
「キャリアビジョンの実現のため」(35.9%)、「女性のロールモデルになりたい」(29.7%)との理由が続いた。【図2参照】
さらに、役員で苦労や不満に感じている点(複数回答)を聞いたところ、最も多かったのは「フィードバック・評価が受けにくい」で、37.5%の人が答えた。
「役員周辺業務に関する学びの場が少ない」が32.8%、「ロールモデルが少ない」23.4%、「横の繋がりが作りにくい」21.9%、「相談相手がいない」と「会社側からのリクエストがつかみにくい」がそれぞれ20.3%で続いた。
「報酬などの処遇と仕事のバランスが合っていない」も18.8%だった。【図3参照】
「社内外の女性役員・管理職とのネットワーキングの機会」は効果的!?
そうしたなか、「女性役員を増やすために効果的だと感じること」(複数回答)との問いに、「社内外の女性役員・管理職とのネットワーキングの機会」が効果的ではないかと答えた人が50%で最も多かった。
次いで、「業務経験の男女格差是正(新規プロジェクトの企画提案、共同プロジェクトのマネジメント、事業戦略全体の策定業務など)」が46.3%、「柔軟な働き方の実現(フレックスタイム・テレワークなど)」が43.8%、「経営層による働きかけ」「役員の類似経験を積むこと」が42.5%となり、4割を超えた。
「管理職・役員の役割やあり方の見直し」(38.8%)や「同性のロールモデルの存在」(35.0%)、「アンコンシャス・バイアス研修の実施」(33.8%)などが効果的と考えているようだ。【図4参照】
調査では、「役員として、多様性の観点で企業や社会に貢献できていると感じられていること」を聞くと、
「取締役会議においても、異なる視点や発想を経営判断に入れることで、取締役会が活性化し、また多様な視点で、経営判断ができるようになること」(50代、取締役)
「旧態依然のコメント等に再考を促す機会があること。具体的な個人としての実例を提示できること。ロールモデルとして助言できること」(60代、役員経験あり)
「外資系人事での経験を元に後継者育成、次世代社内取締役候補の選定、育成などについて指名委員会で貢献できています」(60代、社外取締役)
といった声があった。さらに、「役員を目指す女性へのアドバイス」として、
「未経験のキャリアに挑戦する勇気を持つこと、今の地位処遇仕事内容を後進に譲る決意をすること」(40代、取締役)
「誰でも初めて引き受けるときや新しいミッションとして引き受けるときは不安や能力経験不足ではないかと感じるものだが、一番大事なのは『自分がやるという覚悟とコミット』で能力経験を勝ると感じる」(50代、執行役員)
「スキルや知識だけでなくネットワーク作りも非常に重要だと思います。どんな仕事も前向きに楽しむマインドも大切にしています」(50代、取締役) 「自分一人のためだけでなく、後に続く女性達のためにも頑張って欲しい(40代、社外取締役) 「視座を高くし仕事にあたること、胆力を鍛えること、志を高くもつこと」(60代、取締役)
などの声が寄せられた。
なお、調査は女性役員の紹介サービス「Warisエグゼクティブ」の登録者を対象に、2023年3月7日~31日に実施した。有効回答者数は、80件(役員経験者:64人、役員未経験者:16人)。