「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。
今回の「CASE29」では、「ルールどおりに仕事したので、私は悪くありません」と、お客様からのクレームに鈍感な若手社員の教育に悩むケースを取り上げます。
創り出す課題解決への第一歩―目的を理解させる
<「ルールどおりに仕事したので、私は悪くありません」お客様からのクレームに鈍感な若手社員...どう諭す?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE29(前編)】(前川孝雄)>の続きです。
創り出す課題-仕事の改善への取り組みは、より高度なものです。部下の成長速度を見定めながら、徐々に促していきたいものです。
仕事の改善の出発点は、担当する仕事のあるべき姿の認識=目的の理解です。仕事本来の目的に立ち返り、その目的をより効果的に果たすために仕事を見直すのです。
部下が仕事の目的をしっかり理解できていれば、改善案を考えてもらうところからスタートしてもよいでしょう。本人の目的意識が希薄であれば、仕事の目的の共有から始めましょう。「この仕事の目的をどう思う?」「何のため、誰のための仕事だろうか?」と問いかけていきます。
若手社員は、まだ仕事に熟練していません。しかし、逆にいえば、固定観念がなくフラットな感覚で仕事をみることができます。本人が担当する仕事の目的をどうとらえているか、そこに立ち返って考えた時の素朴な疑問は何か、上司がじっくり傾聴することも有効です。
そこから、上司から見えざる新たな課題が見つかる可能性もあるからです。
改善策の提案を考えさせる
仕事の目的の共有ができたら、「その目的をよりよく実現するためには何が必要?」「どんな仕事の改善や創意工夫があると思う?」と問いかけ、若手社員に考えてもらいましょう。上司として特に踏まえておきたい点や、組織との関係で留意すべき点があれば、アドバイスします。
部下から出されたアイディアに調整や再考が必要であれば、わかりやすく指摘することも必要です。その際に大切なのは、その理由に本人が納得することです。よき提案はできるだけ尊重することが望ましいのですが、仕事の質の担保やリスク回避の見極めも重要です。失敗を恐れずとはいえ、許容できるチャレンジの範囲がどこまでか、必要なら上層部とも相談しながら進めましょう。
自責の視点での提案を促す
もう一つ気をつけたいのは、部下が仕事の目的に立ち返りながらも、単に組織の課題を指摘するだけでは評論になりかねないことです。単なる評論だけでは他責であり、仕事にはなりません。「あなた自身はどう行動したらいいと思う?」「あなた自身にできることは何?」と訊き、内省を促すことです。
もちろん、職場全体として取り組むべき課題もありますが、そのなかでも部下自身が取り組めることが見出せるように、球を返していくことです。
この積み重ねが、主体的に働ける人材への育成につながっていくのです。
※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)をご参照ください。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。
【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授
人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等30冊以上。最新刊は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)。