「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。
今回の「CASE29」では、「ルールどおりに仕事したので、私は悪くありません」と、お客様からのクレームに鈍感な若手社員の教育に悩むケースを取り上げます。
「それって、そんなに問題ですか?」
【A課長】君の課のクライアントからのクレーム、たいへんだったらしいね。
【B課長(同期の同僚)】ああ...うちの若手が担当で、大事なお客様への納期遅れがあってね。一時は肝を冷やしたよ。
【A課長】それは困ったものだな。原因は何だったんだ?
【B課長】本人はルールどおりに納品指示を出したものの、工場の出荷担当者が異動したてで、いつもより1日遅れになった。クライアントは血相変えて連絡してきた。ところが担当が事情を調べて、先方に「明日には届きますので大丈夫です」って返答したんだ。それで、向こうの上司がえらい剣幕で連絡してきてね。上司の僕がお詫びして収めるのに、たいへんだったって訳だ。
【A課長】それはご苦労様だったな。で、当の本人は大丈夫か? 大ごとになって気落ちしてるんじゃないか?
【B課長】それがね「僕は決められたルール通りに仕事しましたし。出荷担当者の責任ですよ。それに1日遅れが困るなんて、お客さまも少し余裕見てほしいですよね」ってケロッっとしているんだ。本人のミスではないとはいえ参ったよ...。
【A課長】そりゃあ、ずいぶん肝が据わったやつだな! 頼もしくて将来が楽しみじゃないか~。
【B課長】また他人事だと思って、気楽に言うなよ! クレームやトラブルに鈍感なのは困るし、営業担当者が会社の窓口だという意識がないのは問題ありだろ!(それにしても、どう言い聞かせて教えればいいやら...)
課題には発生型と改善型がある
仕事においての課題とは、そもそも何でしょうか。それは、CASEの上司が部下の反応に頭を抱えたように、起こったトラブルの当事者が課題だと認識することで、初めて課題になるもの。すなわち、課題とはあるべき状態と現状との差といえるのです。
さらに、課題には(1)発生型と(2)改善型の2つがあるととらえましょう。
(1)はミスやクレーム・事故など、解決が不可避なものです。これに対して(2)は、あるべき状態=目標を自ら引き上げることで課題を新たに設定し、その解決に向けて改善を行うものです。創り出す課題=よりよい仕事に高めていくものともいえるでしょう。
経験の浅い若手社員は、日々発生型の課題に直面します。そこでは、上司・先輩のサポートを受けながら適切な対処が求められます。対処が不可避な課題なので、迅速な報告・相談を含め、リスク対応への基本行動を身に着けることが不可欠です。
しかし、発生する課題への対処ばかりでは、常に後手になりがちで、お客様や周囲にも迷惑がかかります。そこで上司には、部下が自ら創り出す課題を設定し、改善に踏み出せるよう育成していくことも望まれます。
以下、(1)→(2)の順に、部下育成の方法を考えていきましょう。
失敗は繰り返さないことが大事と伝える
仕事上のミスや失敗は、無いに越したことはありません。しかし、人が行うことである以上、皆無ではありえません。まして若手社員は新しい仕事への挑戦も多く、多くの課題に直面します。
そこでしっかり伝えるべきは、失敗じたいがダメなのではなく、同じ失敗を繰り返すことがダメだということ。学習することが重要なのです。失敗を犯してしまったら、まずは応急処置。その後、振り返り、何が原因でどうすれば今後繰り返さないかと自問させるのです。
冒頭のCASEの例などトラブルやクレームの際には、マイナスを被った相手の立場に立って考えることが大切だと教えることも必要です。
できるだけ客観的に現状を認識させて原因分析を促す
部下の失敗を指摘する場合に意識したいのは、人格を責めるのではなく、客観的に起こった事実をとらえ、本人にしっかりと状況を認識させることです。そのうえで、失敗の原因と今後の対応策を考えさせましょう。
すぐに上司や先輩が「これが問題だ」「原因はこれだ」と指摘するのは簡単です。しかし、他人から与えられた現状認識は自分事になりにくいもの。本人が気づくことが大切なのです。
課題解決への提案を促す
続いて、課題解決の方法について、本人からの提案を促します。一人では解決できない課題であれば、上司・先輩への協力方法を教えながらも、まずは本人に考えさせます。
課題に対し、部下が自分で考えた解決策を自ら提案・実行し成果を上げるまで、伴走していくことが上司の役割です。
では、創り出す課題への対応をどう促すか。具体的な方法については、<「ルールどおりに仕事したので、私は悪くありません」お客様からのクレームに鈍感な若手社員...どう諭す?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE29(後編)】(前川孝雄)>で解説していきましょう。
※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)をご参照ください。
※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。
【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授
人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等30冊以上。最新刊は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)。