ポジティブ思考で惨めになる?
こうした取材を通して、著者は以下のような考えに至ったという。すなわち、
「われわれは絶えず不安や心配、失敗、悲しみ、不幸などのネガティブな感情を排除しようとし、懸命に幸福を追求しようとするが、その努力はしばしば空回りし、自らを惨めにする結果に終わるのではないか」
この考察を心理学者にぶつけると、共感を得たという。つまり、ネガティブな心象や事象に対して、開き直って、受容するスタンスこそ、望ましいというのだ。
そして、この「ネガティブ思考」は、古代ギリシア・ローマ時代のストア哲学や禅仏教の瞑想などにつながる伝統的なものだと論じている。
まずはストア哲学から。苦悩を引き起こす究極の原因はわれわれ自身の判断や信念にあるという点では、ストア哲学者とポジティブ思考家は共通している。しかし、ここから両者の考え方は完全に別方向に向かう、と説明している。
ポジティブ思考家は、将来に対してできるだけポジティブな信念を持つべきだと主張する。しかし、「最初から良い結果を期待するのは、幸福感を味わう上で決して賢明なやり方ではない」とストア哲学者は指摘する。
いつまでも楽天的であり続けることは、物事がうまく進まなくなったときに受けるショックを大きくするだけだ。