高級車販売の「トップ営業マン」が売ったあとも、とある「お土産」持参で購入者を訪問する理由(大関暁夫)

糖の吸収を抑える、腸の環境を整える富士フイルムのサプリ!

   営業の5ステップは、「予備調査⇒カットイン⇒ヒアリング⇒セールス(プレゼンテーション)⇒クロージング」で完了するのですが、実はクロージングで成約した後にも+1ステップが存在します。

   それは「継続アプローチ」というステップです。

「買ってよかった」と思った人は知り合いに紹介したくなる

   成約をもらえるまでは、頻繁かつ積極的なアプローチをしていたのに、成約をもらった途端に、顧客と疎遠になってしまう......そんな営業担当をよく見かけます。

   もちろん営業の仕事として、成約をもらっても最終的に支払いが完了するまでが担当業務であるというということは言うまでもありません。ところが、それ以上に、せっかくもらった成約を次の営業につなげる活動をしないというは、あまりにもったいないのです。

   「受注をいただいた取引先には、成約後も定期的訪問した方が良い」と申し上げると、「うちの案件は一件の金額が大きく、年間1回の受注が通常ペースですので、また来年度予算が固まる頃にアプローチします」とか、「一社に2件以上売れるような商材ではないので、成約したら他を回るのが効率的と思います」などと答える営業担当がいます。ここで間違って欲しくないのは、営業訪問の目的は再度の受注ばかりではないということです。

   基本は成約後にアフターフォローすることで、お客様から「買ってよかった」と思ってもらうことが大切なのです。もちろんそう思ってもらうことで、再度ニーズが出た時に真っ先に相談したくなる営業担当になるためでもあります。

   そしてもうひとつ、「買ってよかった」と思った人は知り合いに紹介したくなるといわれる心理に注目しましょう。すなわち、個人ならばその知人へ、法人ならば社内の他部署やあるいはグループ企業、さらにはその取引先などでニーズがありそうな先へ紹介してもらうことが期待できるのです。

なぜトップ営業マンのもとには、お客様からの紹介が集まるのか?

   この紹介心理を説明するひとつの事例を紹介します。

   それは私が、トヨタの自動車販売店のお手伝いをした時の話です。この販売店には全国でも5本の指に入るほど、高級車レクサスを売っているトップ営業マンがいました。そこで彼の営業スタイルを知るべく、彼がどのような営業活動をしているのか、営業活動に同行させてもらうことにしました。

   まず驚いたのは、彼のお客様の大半が、もともとはお客様からの紹介先だったことです。なぜそんなにたくさんの紹介先を持っているのか不思議だったのですが、彼の活動に同行して、その理由が分かりました。

   彼の営業活動の大半は、最近時に新車を購入してくれたお客様訪問です。しかもたんに車の調子を聞きにいくだけではなく、必ず何かしらの「お土産」を持って訪問していました。

   「お土産」といっても、菓子折の類ではありません。購入してもらった車に関する情報です。

   たとえば、購入してもらった車をほめている雑誌の記事であるとか、あるいは同じ車種に乗っている有名人の写真とかまでもストックしていて、訪問の都度お客様が少しでも嬉しくなるような情報を届けていたのです。

   これが効果抜群で、「いい買い物をした」「この人から買ってよかった」という気持ちを引き出し、そしてその気持ちが転じて、周囲で車を買い替えようと思っている人がいた時に紹介、というかたちに発展するのです。

「紹介者の推薦」には絶大な信用力がある!

   彼の主なお客様は、会社経営者やその奥様方です。彼のお客様の一人である中小企業の社長にも、こんなお話をうかがいました。

「ゴルフやら飲み会やらで、同じ企業経営者の人たちとご一緒する機会が多いのですが、車の話はよく出ます。なぜ私の車がベンツじゃなくてレクサスなのか、と聞かれることも多く、そんな折に一度試乗してごらんよ、とレクサス営業の彼を紹介するわけです。あとは、彼が上手にやってくれるのでしょう。とにかく彼の営業は気持ちがよく、良い車を紹介してくれたという満足感が得られます。知り合いからは、いい営業マンを紹介してくれたと感謝されることも多いです」

   この社長に限らず、紹介先の方々は同じような生活水準の人たちが多く、気がつけば手元には富裕層の一大顧客リストが出来上がっていたというわけです。彼の営業成績は新規の紹介案件ばかりでなく、紹介で取引が始まった方々の次なる買い替え需要も加わってくるので、黙っていても毎月コンスタントな営業成績が得られていた、ということなのでした。

   紹介案件は同じ新規営業活動でも「紹介者の推薦」という信用力がそのバックにあるので、一般的な新規推進営業よりも、圧倒的に成約に至る確率が高くなります。特に法人取引の場合には、その信用力はさらに強く作用する傾向にあります。

   親会社や主要受注先から紹介された営業マンであれば、紹介を受けた側もそれなりの気遣いを持って接してくれることは確実ですから、成約の確率が高くなるわけなのです。

   このように、成約後の継続アプローチは対応の仕方さえしっかり心得ておこなえば、ある意味、宝の山でもあるのです。

   すなわち、営業のセオリーは5ステップではありますが5ステップで終わりではなく、その後に位置する継続アプローチにも大きな「うま味」があるわけです。営業は成約で終わりではなく、継続的な営業活動をすることが実績につながるのです。(大関暁夫)

大関 暁夫(おおぜき・あけお)
株式会社スタジオ02 代表取締役 企業アナリスト
東北大学経済学部(企業戦略論専攻)卒。1984年、横浜銀行に入行。現場業務および現場指導のほか、出向による新聞記者経験を含めプレス、マーケティング畑を歴任。全国銀行協会出向時には対大蔵省(当時)、対自民党のフロントマンも務めた。中央林間支店長に従事した後、2006年に独立。銀行で培った都市銀行に打ち勝つ独自の営業理論を軸に、主に地域金融機関、上場企業、ベンチャー企業のマネジメント支援および現場指導を実践している。
メディアで数多くの執筆を担当。現在、J-CAST 会社ウォッチ、ITメディア、BLOGOS、AllAboutで、マネジメント記事を連載中。
1959年生まれ。
姉妹サイト