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メガバンク、23年3月期は好決算 米銀破たんも何のその? 不安なのは「傲慢」経営の果ての客離れか

   三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、三井住友フィナンシャルグループ(FG)、みずほフィナンシャルグループ(FG)の、メガバンク3社の2023年3月期決算が5月15日、出そろった。

   3社の純利益は、MUFGが2年連続1兆円超えの1兆1164億円、三井住友FGは9年ぶりに8000億円を超える8058億円と、いずれも過去最高。海外の法人向け業務などが好調だった、みずほFGは前年から250億円増益の5555億円となった。

   円安やコロナ禍からの経済回復、原材料価格の上昇に伴う国内外での資金需要の増加などの要因から、高い水準の収益につながった。

「かなり手ごたえのある決算だった」

   今年3月以降、シリコンバレー銀行やシグネチャーバンク、ファースト・リパブリック・バンクの3行が経営破たんしている米国の金融情勢を横目に、メガバンク3社が好決算を発表した。

   2023年3月期連結業績は、3社の純利益の合計が前期比4.6%増の2兆4778億円で、連結純利益の合計としては14年3月期以来9年ぶりの高水準となった。

   「かなり手ごたえのある決算だったと思っています」――。決算発表で、MUFGの亀澤宏規社長は、そう評価した。

   本業のもうけを示す業務純益(連結)は、金利上昇局面で外国債券の売却損や円安による為替の影響を受けたものの、国内外の貸出利ザヤの改善、外貨預貸金の収益増による資金利益の増加などによって、前年度比3775億円増の1兆5942億円となった。

   純利益は、前年度と比べて1%減の1兆1164億円。ただ、過去最高益だった21年度に続き、2年連続で1兆円超えとなった。米国の子会社「MUFGユニオンバンク」の売却に伴い、同社が保有していた債券の評価損を計上したことで利益水準を1586億円押し下げたことが響いた。

   三井住友FGの業務純益(連結)は、円安による為替の影響に加え、国内外の法人向け貸出が堅調に推移したことによる資金利益が増益や決済ビジネスが好調だった。それに加えて、役務取引等利益の増益などから、前年度比1236億円増の1兆2764億円となった。最終純利益は前年度比14.0%増の8058億円だった。

   みずほFGの業務純益(連結)は8052億円。前年度比で459億円減だった。ただ、海外の法人向け業務などが好調だったことから、最終利益は前年度と比べて4.7%増の5555億円となった。

   メガバンク3社は、いずれも米国の銀行破たんに端を発した世界的な金融不安に警戒を強めているが、今期(24年3月期)に向けては増益を見込んでいる。

銀行を取り巻く環境に変化は? 人員削減でAI化、お客はネットに誘導

   世界的な金融不安への警戒感が高まりつつあるなか、メガバンクは強気の姿勢を崩さない。

   とはいえ、銀行を取り巻く環境は変わりそうで、変わらない。日本銀行のマイナス金利政策による利ザヤの縮小は、改善しつつあるが緩やかで、収益の確保はままならない。

   また、メガバンク3行が大規模な人員削減や支店数の削減計画を打ち出したのは、2017年末のことだったが、その流れも止まらない。人員削減では、2024年までにメガバンク3行で合わせて3万人超の人員減が見込まれている。

   人手不足、人材不足に頭を痛める企業が少なくないなか、メガバンクなどは新規採用を抑えることで人員数を減らしている。もっとも、それを可能とし、「後押し」しているのが、AI(人工知能)の積極的な導入による業務の効率化だ。将来的には、融資審査もAIが判断できる時代が来るという。

   三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)は今夏、対話型AIのChatGPTを導入する。有用性と安全性を見極めたうえで業務に取り入れ、社内の書類作成や照会対応などで活用することを発表している。日本マイクロソフトのクラウドサービスを利用して独自のAIを開発する計画で、ChatGPTの生産性や顧客サービスの提供価値の向上につなげる。

   三井住友FGは日本マイクロソフトと日本電気(NEC)は共同で、AIアシスタントツール「SMBC-GPT」の導入に向けた実証実験の開始を、4月11日に発表した。

   当初は約600人の本部社員が利用するプロトタイプをつくり、文章作成や要約など業務支援に活用。2023年度上期中に三井住友銀行の全行員が利用できるようにする方針という。

   みずほFGは、ChatGPTの金融に関するデータ収集やプログラミングのコード生成などで活用するため、想定するセキュリティ要件を確認しながら社内への導入を検討している。

メガバンクの好決算は「お客を後回し」にしたから?

   優秀な人材が減ることは、中期的には「現場力」の弱体化が懸念される状況だ。

   つまり、しわ寄せは、「お客」にくる。すでに支店はジワジワと閉鎖され、キャッシュカード(現金)が使えるキャッシュポイントであるATMコーナーも共同化などで減っている。

   「預金者は支店に行ってサービスを受けられる」という、当たり前だった光景は様変わりした。

   その一方で、預金金利がほぼゼロなのに、振り込みや現金の引き出し、時間外などの手数料はドンドン値上げする。好決算の背景にある利益水準の上昇は、こうした手数料収入のアップが貢献したからでもある。

   さらには、インターネットによるサービスの手数料を安くすることで利用を誘導することで、自社でかかるコストを下げると同時に、ネットが「使えない」お客、預金だけのお客を排除する。

   メガバンクの好決算は、いわば利用者を「後回し」にした結果からに過ぎないといえるのかもしれない。人的対応を求めるような、手間のかかるお客は「規模の小さな、システム投資が遅れぎみの地域金融機関へ」といわんばかりの姿勢も見え隠れしている。