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平気でウソをつくChatGPTとどう付き合い、ビジネスに活用するか?

   いまや、「ChatGPT」という言葉をメディアやネットで見ない日はない。ブームと言っていいだろう。ChatGPTを扱った書籍も続々と出始めた。本書「先読み!IT×ビジネス講座 ChatGPT 対話型AIが生み出す未来」(インプレス)は、わかりやすく対話形式でChatGPTについて解説した本である。4月に出て、もう6万部と売れているという。

「先読み!IT×ビジネス講座 ChatGPT 対話型AIが生み出す未来」(古川渉一、酒井麻里子著)インプレス

   著者の古川渉一さんは株式会社デジタルレシピ取締役CTO。東京大学工学部在学中に、AI研究を行う松尾研究室に所属。複数のスタートアップを経て現職。現在はAIライティングアシスタント「Catchy(キャッチー)」の事業責任者。もう1人の著者であるITライターの酒井麻里子さんが質問し、古川さんが答えるという形式で書かれている。

従来のAI開発との違いをラーメンに例えると?

   ChatGPTは、OpenAIが2022年11月に公開した人工知能チャットボット。「Generative Pre-trained Transformer」とは、「生成可能な事前学習済み変換器」という意味だ。

   従来のAI開発との違いをラーメンに例えているので、慣れていない人にも、わかりやすい。というのは、本格的にスープや麺をつくるのが従来のAI開発で、カップラーメンがGPTモデルだという。

   Web上の大量のデータを学習済みで、ある程度賢い状態になったものがGPT-3などの「モデル」で、すぐにサービス開発に使うことが可能だ。

   ただし、GPTモデルそのものはあくまでも開発者向けのもので、一般ユーザーが直接使えるものではなかった。そこに、誰もが使えるサービスであるChatGPTを開発元のOpenAI自らが出したことで、一般の人にも身近なものになったという。

   そのすごさについて、古川さんは「新たな答えを生成できる」ことだ、と指摘している。

   たとえば、「今日少し疲れているんだけど、昼食は何を食べるのがいいかな?」といった質問にも、その場で、こんな答えを返す。

「疲れているときは、栄養バランスの良い食事が重要です。たとえば、たんぱく質を含む食品(鶏肉や豆類など)と、炭水化物を含む食品(ごはんやパンなど)、野菜をバランスよく摂ることがおすすめです。また、過剰なアルコールやカフェインの摂取は避けるようにしましょう」

つまり、あらかじめ用意された答えから選んでいるのではなく、その場で答えを生成しているのだ。

ChatGPTを使うには?

   使うにはChatGPTのサイトでアカウントを作成すればいい。

   その際、メールアドレスや電話番号が必要な場合もあるが、GoogleやMicrosoftのアカウントを使うこともできる。無料でも一通りの機能が使える。有料版の「ChatGPT Plus」(月20ドル)は混雑時にもアクセスできるなどのメリットがあるそうだ。

   使い方は簡単だ。画面のいちばん下にある、テクスト入力欄に質問を入れて送信アイコンを押すだけ。同じチャットでやりとりを続ければ、前の質問を受けた答えが返ってくるし、別の話題に変えることもできる。

   思いどおりの答えを引き出すには、前提となる「自分の立場」を明確に伝えるのがコツだという。追加の質問で掘り下げていくことも大切だ。

   注意しなければならないのは、ChatGPTの回答は、正しいとは限らないことだ。平気で嘘をつくこともあるという。あくまでも学習データに基づいて「それっぽい」ことを生成しているだけなので、それを理解したうでで利用することが不可欠だ。

   また、2011年から2022年初頭のデータをつかって学習しているので、それ以降のできごとや、その時期にネットに情報がなかったものは対応できない。

   もう1つの注意点として、ChatGPTに個人情報や会社の機密情報を入力してはいけないことを挙げている。入力した情報がシステム改善のため使われることがあるので、個人名や住所などのプライバシーに関する情報や、会社の情報を入力してはいけない。

文章生成AIの活用で「コストを削減」「売り上げに貢献」

   どんな技術で成り立っているかを詳しく解説している。学習の仕組みを知ると、より理解が深まるだろう。

   ここでは、第4章「ビジネス活用の事例とポテンシャル」について、紹介しよう。

   まず、文章生成AIの活用は多くの分野で可能だとしている。大きく分けて、「コストを削減する」「売り上げに貢献する」という2つの観点で説明している。

   コスト削減は、非常にシンプルで、これまで外注していた業務にAIを活用することで外注費を削減するというものだ。

   たとえば、SNSの運用やブログ記事の制作といった業務について、今まではディレクターが外部のスタッフ数人に発注して進めていたものを、ディレクター1人だけで賄えるようになるかもしれないという。

   売り上げへの貢献という点では、たとえば営業担当者がお客さんからのメールに返信する場合を想定している。

   過去に出したメールの文章のテイストや内容をAIに学習させることで、メールソフトを開くと返信の下書きがすでにできあがっているようにすれば、その後の作業が楽になる。結果的に、多くのお客さんとコミュニケーションが取れるようになり、売上向上につながる可能性がある。

   そのほかに企画書や提案資料、プレスリリースなども、最初にAIで大まかなものを作って手直しする形を取ることで、ゼロから自分で作る場合に比べて生産性が向上するはずだ。

   古川さんは、こうした日常業務の効率化にAIを活用しないと企業として生き残るのが難しい時代になっていくかもしれない、と見ている。

動画や3Dなど...さらに広がる生成系AIの今後

   実際、顧客対応やカスタマーサービスへの活用はすでに行われている。メール返信は、かなり実用性の高い分野で、「Ellie」というサービスは、2022年末のサービス公開直後から大きな注目を集めているという。

   ChromeやFirefoxの拡張機能として提供されているサービスで、メールの文脈を理解したうえで、返信を作成してくれる。ブラウザの拡張機能としてインストールすることで、Gmailなどで利用可能になる。

   「集合人格」をサービス向上に生かす、という利用法も興味深い。企業が持っている自社の顧客データをAIに学習させて集約し、商品開発などの際にその「人格」とチャットして意見を聞くという使い方だ。

   これまでに集まった顧客の声に基づいて年齢や性別、属性ごとの疑似的な顧客をつくり、新商品の開発やパッケージデザイン選定について意見を聞く。海外では「viable」というサービスがすでに出ているそうだ。

   嘘をつくAIとうまく付き合うには、「いったん全部疑ってみる」くらいの姿勢がいいかもしれないという。あくまでもサポートツール、アシスタントツールとしてとらえることが大切だ。

   最後に文章や画像以外の、動画や3Dモデルなど、さらに広がる生成系AIを紹介している。また、アメリカのベンチャーキャピタルによると、2030年にはプロが作った文章を超えるという予測もあるという。

   条件付きで、一部の官公庁や企業がChatGPTの利用を始めた。そのうち、さまざまな成功と失敗の実例が報告されることだろう。今はまだ補助的なツールだが、いかにうまく自分の仕事に活用するか、真剣に考える時期かもしれない。(渡辺淳悦)

「先読み!IT×ビジネス講座 ChatGPT 対話型AIが生み出す未来」
古川渉一、酒井麻里子著
インプレス
1540円(税込)