「日経平均3万円突破」と「予想以上に良かった1~3月期GDP」日本経済回復は本物か? エコノミストも賛否...「最善」と「最悪」のシナリオとは?

建築予定地やご希望の地域の工務店へ一括無料資料請求

   内閣府が2023年5月17日発表した2023年1~3月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.4%増、年率換算で1.6%増だった。

   これは市場予想を大きく上回る「好成績」で、プラス成長は3四半期ぶりだ。コロナ禍からの経済の正常化で、堅調な個人消費が全体を押し上げたかたちだ。

   同日、東京株式市場では日経平均株価がついに3万円の大台を回復、市場関係者は沸き返った。しかし、この日本経済の「回復」は本物か。エコノミストの分析を読み解くと――。

  • 日本経済はどうなる?(写真はイメージ)
    日本経済はどうなる?(写真はイメージ)
  • 日本経済はどうなる?(写真はイメージ)

日経平均3万円の当日、全体として良い内容のGDPだが...

   公益社団法人・日本経済研究センターが5月15日に発表した、民間エコノミスト36人による2023年1~3月期の国内総生産(GDP)の予測は、年率換算で1.1%増だった。内閣府の発表は1.6%増だから、市場予想よりも0.5%も高い。

   GDP速報値の内訳をみると、GDPの半分以上を占める「個人消費」は、前の3か月と比べてプラス0.6%となった。コロナ禍の影響が和らぎ、旅行や外食などサービス消費が回復したほか、自動車の販売が増えたことが要因だ。

   企業の設備投資も自動車向けなどの投資が堅調でプラス0.9%。民間の住宅投資もプラス0.2%と2期連続のプラス。

   一方、「輸出」はマイナス4.2%となった。統計上「輸出」に計上される外国人旅行者によるインバウンド需要が大きく伸びたが、海外経済の減速の影響を受け、中国や欧米向けの輸出が落ち込んだ。

   また、物価変動を加味した「名目」では、年率換算でプラス7.1%という大幅な上昇となった。これは、円安や資源価格上昇により、さまざまな商品への価格転嫁が進み、物価が急上昇したことを反映して実質を大きく上回る伸びとなった。

kaisha_20230517191020.jpg
景気後退が進むのか?(写真はイメージ)

   今回の市場予想を上回る実質GDPの上昇、エコノミストはどう見ているのか。

   日本経済新聞オンライン版(5月17日付)「GDP年率1.6%増 1~3月、3四半期ぶりプラス」という記事に付くThink欄の「ひとくち解説コーナー」では、慶應義塾大学総合政策学部の白井さゆり教授(マクロ経済学)が、

「予想より良い結果となり、とくに消費と設備投資が、先行して公表された他のデータと比べて強かったと思います。耐久財の需要が非常に強く、ついでサービス消費が強くなっています。ただ、耐久財の買い時判断などはさほど大きく改善していないので持続性があるかはまだ分かりません。また半導体などの不足による供給制約がどの程度改善したのかもみていく必要があります」

   と、分析したうえで、

「住宅投資もいくぶん改善した点は注目しています。雇用の改善や賃金上昇を見込んだものなのか確認していきたいと思います。輸出は予想通り下落していますが、インバウンド需要の回復が昨年から続いており財輸出の下落をいくぶん相殺しています。全体として比較的良い内容だったと思います」

   と、評価した。

「日本経済はどっこい粘り腰を発揮するかもしれない」

kaisha_20230517191040.jpg
日本経済の行方は?(写真はイメージ)

   同欄では、日本経済新聞社特任編集委員の滝田洋一記者が、

「GDPは名目では前期比年率7.1%の伸びとなりましたが、名目GDPの年換算額でも570.0兆円と過去最高。前期比で約10兆円増えました。
名目が実質を大きく上回ったのは、デフレが解消しつつあるおかげでしょう。企業の売り上げや利益、給与明細、そして税収は名目値ですから、名目成長率の高まりは経済活動全体を温める役割を果たします」

   と、名目成長率の上昇に注目。つづけて、

「そんな動きを見て日本株を再評価する動きが強まり、TOPIXは33年ぶりの高値に。資産価格の上昇が経済活動を後押しする――資産効果が働きだすなら、日本経済はどっこい粘り腰を発揮するかもしれません」

   と、高評価を与えた。

   しかし、同欄では、みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏が、

「実質GDPは前期比プラス0.4%で、市場予想を上振れたものの、景気の本格回復は見えていない。個人消費は前期比プラス0.6%になった(実質GDP前期比への寄与度はプラス0.3%ポイント)。形態別国内家計最終消費支出(実質)で家計最終消費支出への前期比寄与度を見ると、耐久財のプラス0.3%ポイントと、サービスのプラス0.2%ポイントが目立つ」

   と説明。そして、

「半導体などの供給制約が緩和した新車の販売台数増加、コロナ危機終了・政府の支援策が追い風の旅行・外食が、個人消費が1~3月期に伸びた主役と言える。しかし、これらは持続性のある伸びではない。物価高による圧迫、長生きリスクを意識した、基本慎重な消費姿勢が続くだろう」

   と、個人消費の今後の伸びに疑問を投げかけた。

今後のリスク要因...海外経済減速、物価高、人出不足

kaisha_20230517191103.jpg
日経平均3万円に乗せた東京証券取引所

   ヤフーニュースコメント欄では、三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主席研究員の小林真一郎氏が、

「コロナ禍の収束に向けた動きを反映して、国内需要を中心に回復の動きが強まったことで、事前に予想されていた小幅プラスを上回る底堅い結果となりました。ようやくアフターコロナ期に向けた第一歩を踏み出すところまで景気は回復してきました。こうした前向きな動きは新年度にも持ち越されており、4~6月期も内需を中心に底堅い伸びが予想されます」

   と、評価した。そのうえで、

「具体的には、宿泊・飲食サービスやレジャーなどのサービス消費の増加が期待されるほか、企業の設備投資やインバウンド需要の増加も続く見込みです。さらに自動車の生産制約の解消進展、春闘の賃上げ率アップを反映した賃金の伸び率拡大、夏のボーナス支給額の増加もプラス要因です。
もっとも、(1)海外経済の減速懸念、(2)物価高のマイナスの影響、(3)人手不足による供給制約リスクなど、景気回復を阻害する要因もあり、これら下振れリスクが顕在化すようであれば、成長率が急速に鈍化する懸念があります」

   と、今後のリスク要因を挙げてみせた。

kaisha_20230517191124.jpg
コロナのリベンジ消費が増えた(写真はイメージ)

   同欄では、第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏も、

「内訳を見ると、最大の押し上げ要因は控除項目となる輸入の減少ですが、それに次ぐ押し上げ要因は個人消費となっており、やはりコロナからのリオープンの寄与が大きいことが推察されます。また、設備投資も個人消費に次ぐ押し上げ要因となっており、各種設備投資計画調査などに基づけば、経済対策の効果などもあり、DX・GX・経済安全保障関連の設備投資がけん引していることが推察されます」

   と、分析。そのうえで、

「ただ一方で、実質GNI(国民総所得)や実質雇用者報酬などの実質所得関連指標はいずれもマイナス成長であり、生産や需要は増えているものの、交易損失の悪化で実質所得は厳しい構図に変わりないという見方もできるでしょう」

   と、所得の面から厳しい状況が続いているとした。

来年、米国経済悪化とともに日本経済が減速...

kaisha_20230517191145.jpg
物価上昇はいつまで続く?(写真はイメージ)

   こうしたエコノミストの分析で共通しているのは、今回のGDP速報値に日本経済の今後を占ううえで、プラスとマイナスの要因が混在していることだ。

   その点について、ヤフーニュースコメント欄では、ソニーフィナンシャルグループのシニアエコノミストの渡辺浩志氏が「内需と外需で明暗が分かれました」として、こう解説した。

「個人消費は経済再開に伴うリベンジ消費や自動車購入の増加などにより好調。続く4~6月期も新型コロナの5類移行に伴う制限緩和を追い風に、個人消費は堅調を維持する公算です。足元では食料品などのインフレが家計購買力を削いでいますが、賃上げの動きが広がっており、これが消費者マインドを下支えしています」

   と、まずプラスの要因を解説。そして、マイナスのリスクについて、

「一方、輸出は大幅減。コロナ禍後の巣ごもり需要の反動減が尾を引き、製造業の景気が世界的に悪化していることが背景にあります。また、輸出はこの先も弱含みの公算。米国ではインフレ退治の金融引き締めで企業や家計の資金需要は減退しているほか、預金流出や貸倒れへの警戒から銀行の貸出態度も慎重化しています。米国は年内にも景気後退に陥る見込みであり、そうなると日本の企業部門は一段と厳しくなります。個人消費の回復だけでは景気を支えきれなくなり、来年には日本も景気後退となる可能性があります」

   と、世界経済の悪化が今後、日本経済の後退を招くと予測した。(福田和郎)

姉妹サイト