「トリプル安」が迫るなか、市場と世論の危機意識低すぎ!
一方、「どうせ妥結するだろう」と楽観的すぎるため、市場が動揺しないとギリギリまで合意に至らないところが、問題を深刻に、かつ危険にしていると懸念を示すのが、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏はリポート「なお遠い米国債務上限・デフォルト問題の解決:金融市場の動揺が問題解決の鍵であり懸念でもある構図」(5月17日付)のなかで、「合意に至るためには、まず株価の大幅下落など金融市場が大きく動揺し、それを受けて国民の危機意識が高まることが必要となる」と指摘する。
「そのうえで、国民の間で、この問題で民主、共和両党のどちらにより責任があるのか、についてコンセンサスが成立していけば、より責任があるとされる政党が、来年の大統領選挙への悪影響を警戒して、より譲歩する形で合意が成立するだろう」
ところが、まだ市場と国民の危機意識は薄い。というのも、過去の米債務上限問題は、実は米国より世界に与える被害のほうが大きかった面があるからだ。
「2011年の時には、『Xデー』前後の約10日間に米国株(S&P500)は17%下落したが、欧州株(ユーロストック)は約22%、日経平均も約10%下落している。海外市場に与えた影響も大きかったのである」
「他方、同時期にドル円は2%下落し、米国10年国債利回りは0.9%程度下落した。国債が格下げされて信用リスクが高まったものの、金融市場がリスク回避傾向を強めると、米国債は安全資産として買われ、価格は上昇、金利は低下したのである。
同様に、金融市場がリスク回避傾向を強めると、事実上の基軸通貨であるドルを確保しようとする動きが一部で生じるため、大きめの株安にも関わらずドルはそれほど下落しなかった、というのが2011年の総括である」
つまり、米国はそれほど打撃を受けなかったというわけだ。しかし、今回は違うと木内氏は警告する。
「今回はデフォルトリスクが高まり、あるいは国債の再度の格下げとなれば、信用リスクの高まりがリスク回避傾向の影響を上回って、米国債が下がり、長期金利が上昇する可能性もあるだろう。それは、債券含み損をさらに拡大させることで、足元の米銀不安を増幅させる可能性が考えられる」
「その場合には、ドルの下落幅もより大きくなり、米国は『トリプル安』の傾向を強める。そうなれば、海外金融市場への影響も2011年の時よりも大きくなり、より急速な円高株安進行で、日本経済が大きな打撃を受ける可能性も出てくる」
どうするバイデン大統領、米国議会、米金融市場、そして米国民、と問いかけているわけだ。(福田和郎)