東証プライム市場に上場する企業(全産業ベース)のうち、初任給を「全学歴引き上げ」た企業は70.7%にのぼり、過去10年で最多となったことがわかった。
民間調査機関の労務行政研究所が、この春に入社した新卒者の初任給の改定状況を調査。2023年4月11日までにデータを得られた東証プライム上場の157社を集計した。5月9日の発表。
急激な物価上昇を受けた賃上げ機運の高まりや、若年労働力人口の減少に伴う新卒採用の競争の激化など、初任給の決定をめぐる状況は大きな転換点にあり、注目を集めている。
製造業、初任給引き上げに前向き
調査によると、2023年の初任給の改定状況は、東証プライム市場に上場する企業の全産業ベース(157社)のうち、70.7%の企業で「全学歴引き上げた」と答えた。22年度の速報集計時の41.8%から28.9ポイントも上昇した。
初任給の改定を「全学歴据え置き」と答えた企業は26.1%。22年度の速報集計時の49.7%から23.6ポイント低下した。【図1参照】
産業別にみると、製造業は84社のうち、83.3%の企業が初任給を引き上げた。一方の非製造業は73社のうち、56.2%だった。製造業が非製造業を27.1ポイント上回っている。
初任給を全学歴で「引き上げ」た企業の引き上げ率の推移をみると、【図2】のようになる。
2014年度はデフレ脱却に向けた賃上げの労使合意などを背景に、13年度の4.2%から19.0ポイント上昇の23.2%。15年度はさらに上昇して39.9%となり、賃上げ基調が続いた。
その後、18年度は39.7%と高かったが、16年度、17年度、19年度、20年度は30%台で推移。コロナ禍の21年度は、企業の業績不振の影響などで17.1%と大幅に低下していた。
22年度は、それが一転して40%台に上昇。さらに23年度は70%を超え、2年連続で大幅な上昇となったことがわかる。
大卒の初任給は平均22万5686円
2023年の学歴別初任給の平均水準をみると、大学卒で22万5686円、大学院卒修士が24万3953円。短大卒19万5227円、高校卒18万3388円だった。【図3参照】
同一企業における22年度の初任給と比較した上昇率は、大学卒で3.1%、大学院卒修士3.2%、短大卒3.5%、高校卒で3.7%となっている。
大学卒では、「引き上げ」が71.7%、「据え置き」が28.3%。引き上げた場合の上昇額は「1万円台」が18.6%で最も多い。次いで「5000円台」と「7000円台」が10.5%。引き上げた場合の平均上昇額は9523円だった。【図4、図5参照】
上場企業で「初任給引き上げ」7割は多い、少ない?
2023年1月4日、岸田文雄首相は年頭会見で経済界に対して「インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい」と述べ、物価上昇分を超える賃上げを迫った。
3月の消費者物価指数(総合指数)は前年同月比で3.2%の上昇で、今年の春闘で大幅な賃上げが実現しない限り、国民の生活水準が低下するのは確実視されていた。
ただ本来、賃金は企業の生産性の向上があってこそ実現するもので、政府が賃上げを要請したからといって、容易に上がるようなものではない。生産性の向上がないまま名目賃金を引き上げれば、企業の利益は減少する。
利益の減少に、非正規労働者の拡大による実質的な賃下げや、下請け企業への過剰な値引き要求が起こるといった事態に陥る可能性すらある。
初任給の引き上げは、人手不足の中で「優秀な人材を確保したい」という企業の採用事情の表れでもあるが、引き上げられる企業は「まだ余力がある」といってよい。
調査によると、上場企業でも「一部据え置き」と答えた企業が3,2%、「全学歴で据え置いた」企業が26.1%にのぼった。
上場企業の3割近くが「引き上げられない」でいるのだから、中小企業の改定状況は「推して知るべし」か。
なお、調査は2023年3月下旬に東証プライム市場に上場する1784社に調査票を発送。併せて電話で取材を実施。4月11日までに回答のあった157社を集計した。