ソフトバンクG、2期連続の巨額赤字に...収益の柱、投資ファンドの損失が影響 難局打破のカギはアーム社の米IPO...ねらいは?

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   ソフトバンクグループ(SBG)が2期連続の巨額赤字を計上した。

   2023年3月期連結決算(国際会計基準)は、最終(当期)赤字が9701億円に達し、過去最大の赤字だった前の期の1兆7080億円からは改善したとはいえ、本格的な回復はならなかった。

   世界的な株式市況の低迷などを受け、収益の柱とする投資ファンドの損失が膨らんだためだ。世界経済の先行きは不透明感がぬぐえないだけに、難局打開に向け、孫正義会長兼社長がどんな手を打つか、注目が集まる。

頼りのアリババ株は低迷 23年3月期決算では、ほとんどを実質的に手放して「底をつく」

   2023年5月11日に連結決算を発表した。売上高は、傘下の携帯電話大手ソフトバンクの法人向け事業の堅調などから前期比5.6%増の6兆5704億円になった。

   もっとも、SBGは通信会社というのは、過去の話といっていいかもしれない。現在、同社の実態は、投資会社になっている。歴史を簡単に振り返っておこう。

   1981年、孫氏がパソコン用ソフトを販売するために「日本ソフトバンク」として設立した。90年代にソフトバンクに社名を変え、ネット検索エンジンの米ヤフーに出資し、折からのIT(情報技術)バブルに乗って急成長する。

   ITバブル崩壊後は日本テレコム、英ボーダフォン日本法人を買収して携帯電話中心の事業構造に転じ、国内大手3社の一画の地位を不動のものとしている。携帯事業会社の現ソフトバンク自体も東証に上場するが、もちろん、今もSBGが40%の株を持つ傘下企業だ。

   国内通信市場が頭打ちとなるなか、2015年にソフトバンクからSBGに社名を改め、投資会社の色彩を強めていく。17年、サウジアラビアの政府系ファンドと共同で10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」を設立。19年には孫会長兼社長自身、「もはや事業会社ではない」と投資会社化を宣言した。

   以来、業績は乱高下を繰り返す。

   米シェアオフィス大手ウィーワーク関連の損失で打撃を受け、20年3月期に9615億円の赤字に陥るも、新型コロナウイルス禍に対応した金融緩和による株高などで、21年3月期には国内企業で過去最大となる4兆9879億円の純利益をたたき出した。

   その先は、ロシアのウクライナ侵攻と世界的な物価高騰を受けた金融引き締めで株の含み益が吹き飛び、冒頭報告の通り、2期連続の大赤字になっている。

   この間のSBGの決算でたびたび「活躍」したのが、2000年に出資し、後に中国電子商取引(EC)最大手に成長したアリババ集団の株だ。

   保有するアリババ株の莫大な含み益を活用した資金繰りはSBG流の「錬金術」などと呼ばれもしたが、中国当局によるアリババへの規制強化もあって株価が低迷したこともあり、さすがにこれも底をついた。

   23年3月期決算ではSVFの投資損失は約5兆3200億円に達し、保有アリババ株のほとんどを実質的に手放し、4兆3400億円を調達したが、損失を補いきれなかった。

2016年に買収の「半導体設計」アーム社、年内に米ナスダック上場目指す...1兆円調達か

   今後の見通しはどうか。

   SVFは人工知能(AI)分野など世界の新興企業に投資し、その数は現在、約440社にのぼる。

   しかし、ベンチャーは資金力が乏しく、株価下落や景気悪化の局面では、経営が大きく影響を受けることが少なくない。SBGの投資先も、ここ数年の経済環境の激変の影響をもろに受けてきた。

   このため、SBGは守りを固め、SVFを通じた新規投資は抑え、有利子負債の返済や自社株買いを優先してきている。

   そのうえ、ここにきて、対話型AI「ChatGPT(チャットGPT)」など生成AIが話題を集め、関連企業が注目されているが、現状ではSBGへの追い風にはなっていない。

   それでも、決算発表の会見で後藤芳光・最高財務責任者(CFO)は「従来通りの守りを固める戦略でいいのか、攻めを両立すべきか、検討すべき段階」と述べ、反転攻勢に出るタイミングを計っている姿勢をにじませた。

   アリババ株が底をついた今、投資と財務のバランスを考えるうえでカギを握るとみられるのが、半導体設計の世界的企業アーム(英国)だ。

   半導体の「設計図」を手掛け、世界中の半導体メーカーが顧客。省エネ性能などに強みがあり、スマートフォン向け半導体市場の9割がその設計になる。

   SBGは2016年にアームを買収したが、買収価格は当時の日本企業による海外企業の買収として最大規模の3兆3000億円だった。時価はというと、英経済紙「フィナンシャル・タイムズ」は少なくとも300億ドル(約4兆1000億円)との見方を報じている。

   SBGは23年4月29日、米国市場でのアームの新規株式公開を米証券取引委員会に申請しており、年内の上場を目指している。

   売り出し価格、売り出す株数などは未定だが、市場関係者の間では、米巨大IT企業などが上場する米ナスダック市場に上場し、株式発行により1兆円以上を集めるとの見方が出ている。

   上場により、資金を得るだけでなく、保有株を担保として活用しやすくなる。SBGがファンドの投資再拡大に動くタイミングで、アームの上場は大きな力になると期待されるゆえんだ。

時価総額は、純資産の半分...経営陣による買収の観測も

   さらに、市場には孫氏がMBO(経営陣による買収)に踏み切り、SBGを非公開企業にするのではないか」との見方が出ている。

   現在のSBGの純資産総額(保有資産価値から純有利子負債を差し引いた額)は、23年3月末時点で14兆円強ある。

   これに対し、SBG株の時価総額は足元で約7兆3000億円。株式市場で資産の半分の評価しか得られていないことになる。つまり、保有株の半分程度を売却すれば、MBOのための資金を調達できる計算だ。資産評価14兆円のなかでアーム株は2兆6000億円といい、IPOで時価が増えれば、MBOのうまみはさらに増す。

   先進各国の利上げはいつまで続くのか、そのなかで世界の景気と株式市場が回復に向かうのか、なお低迷するのか――。不透明感がなお広がるなか、SBGの事業展開にとって、アームのIPOが成功するかが、まずは試金石になるだろう。(ジャーナリスト 白井俊郎)

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