トヨタ自動車グループの品質管理が揺らいでいる。複数の中核企業で不正行為が相次ぎ発覚しているためだ。
ダイハツ海外向け4車種、8万8000台...衝突試験をパスするため、本来の仕様にない加工
「信頼を裏切り、多大な迷惑をおかけすることになり申し訳ない」
トヨタの完全子会社、ダイハツ工業の奥平総一郎社長は2023年4月28日、都内で緊急の記者会見を開き、内部告発で社内の不正行為が確認されことを発表し、うなだれた。
同社によると、東南アジアなど海外向けに生産、開発された4車種について、認証に必要なドアの衝突試験をパスするため、本来の仕様にはない加工を施していたという。
対象車種は約8万8000台。タイとマレーシアで生産しており、一部はOEM(相手先ブランド製造)供給によってトヨタブランドで販売されていた。
トヨタの豊田章男会長も同日、自社のオンラインメディア「トヨタイムズ」で説明会を開き、「ダイハツ工業だけでなく、トヨタ自動車を含めた問題だ」と陳謝。原因究明と再発防止に全力で取り組むと強調した。
ただ、再発防止の道は険しい。
トヨタグループをめぐっては、J-CAST 会社ウォッチが「日野自動車のエンジン不正問題...商用車、建機メーカーにも影響 「先が見えない」広がる波紋、信頼失墜...再生の道どうなる?」(2022年08月14日付)などで報じてきたように、子会社の日野自動車で2022年春、排ガスや燃費のデータを改ざんする悪質な不正行為が発覚し、消費者の厳しい批判を浴びたばかりだ。
「不正の連鎖」はこれだけに止まらない。
23年3月には、豊田自動織機で排ガス認証をめぐる不正が発覚。今回、ダイハツでも不正が明らかになったことで、グループ全体の企業統治の危うさが浮き彫りになったかたちだ。
トヨタ経営陣の焦り、現場へのプレッシャーに?
トヨタが品質管理を問われたのは、これが初めてではない。
2009年には米国などでトヨタ車の利用者から「意図しない急加速」などのトラブルが相次いで報告された。
トヨタは対策のため、延べ1000万台規模の大規模なリコール(回収・無償修理)や自主改修に踏み切ったが、信頼はがた落ちに。この年に社長に就任したばかりだった章男氏は、米議会の公聴会に呼ばれるなど責め立てられた。
「大規模リコール問題の際、トヨタは逃げない、隠さない、嘘をつかないと世界中のお客様に約束した。それにもかかわらず、グループ会社でこうした問題が発覚してしまった」
23年4月末の説明会で章男氏は、自ら切り出すかたちでリコール問題に言及した。09年の暗い記憶がいまも鮮明に残っていることをうかがえる。
なぜトヨタグループの不正がなくならないのか。
「トヨタは世界を代表する自動車メーカーになった。この過程でライバルを含め、多くの企業を傘下に収めていった結果、グループ内に目が届きにくくなった側面もある」
トヨタ関係者は背景にグループの巨大化があると指摘する。
別の見方もある。
ライバル企業の幹部は、電気自動車(EV)の普及など自動車をめぐる競争環境が激変する中、トヨタ経営陣の焦りが現場へのプレッシャーになったのではないかと見る。
「トヨタは2022年の自動車世界販売で首位を守ったが、EVの開発では米テスラはおろか、欧米の自動車大手にも遅れをとっている。こうした逆風が経営者の利益重視の姿勢を加速させ、追い詰められた現場が不正に走る要因になったのではないか」
トヨタグループは消費者の信頼を取り戻すことができるか。(ジャーナリスト 済田経夫)