新型コロナウイルスの感染による打撃にあえいできた航空大手やJRの業績の回復が顕著だ。
主要5社の2023年3月期決算は、純損益がそろって20年3月期以来、3年ぶりに黒字に転換した。コロナ禍で落ち込んだ旅客需要が戻ってきたものだが、足取りはなお遅く、なお回復の途上だ。
【航空】国際線の旅行需要の回復が鈍く、課題に
まず航空大手2社の2023年3月期連結決算をみると、ANAホールディングス(HD)は、売上高が前期比67.3%増の1兆7074億円、営業損益は1200億円の黒字(前期は1731億円の赤字)、純損益は894億円の黒字(同1436億円の赤字)となった。
日本航空(JAL)の23年3月期は、売上高に当たる売上収益が前期の約2倍の1兆3755億円、この期から発表した本業のもうけを示すEBIT(利払い・税引き前利益)が645億円、純損益は344億円の黒字(前年は1775億円の赤字)だった。
2024年3月期の予想は、ANAHDの売上高が15%増の1兆9700億円、営業利益は同17%増の1400億円、純利益は同11%減の800億円を予想する。この営業利益水準はコロナ前の19年3月期の約8割になる。
JALの24年3月期は売上収益が前期比21%増の1兆6580億円、EBITが同55%増の1000億円、純利益は同60%増の550億円を見込む。EBITは会計基準変更前と単純比較できないが、この予想はコロナ前の6?7割の水準になるという。
両社とも、完全回復には程遠いと言える。
その大きな要因は、国際線の旅客需要が国内線に比べて回復が鈍いこと。2019年と比較し、国内線は2社とも9割以上に拡幅すると見込むが、国際線はANAHDが70%、JALは65%程度にとどまるとみる。
【鉄道】通勤・通学の利用、行動変容からコロナ禍前と同じとはいかず 動力費の高騰も負担に
JR本州3社も、2023年3月期連結決算は順調だ。JR東日本は売上高が2兆4055億円(前期比21.6%増)、営業損益が1406億円の黒字(前期は1539億円の赤字)、純損益が992億円の黒字(前期は949億円の赤字)。
JR東海は売上高が1兆4002億円(前期比49.7%増)、営業利益が3745億円(前期の220倍)、純損益が2194億円の黒字(前期は519億円の赤字)。
JR西日本は売上高が1兆3955億円(前期比35.3%増)、営業損益が839億円の黒字(前期は1190億円の赤字)、純損益が885億円の黒字(前期は1131億円の赤字)。
2024年3月期の売上高、営業利益、純利益の予想は、それぞれ、JR東日本が12%増の2兆6960億円、92%増の2700億円、38%増の1370億円、JR東海が12%増の1兆5660億円、15%増の4300億円、14%増の2500億円、JR西が8%増の1兆5120億円、37%増の1150億円、25%減の665億円となっている。
足元も好調だ。ゴールデンウィークの新幹線は、予約段階でコロナ禍前の9割前後に回復していたという。
ただ、課題もある。「通勤・通学の利用は、行動変容によって(コロナ前より)10%ほど減る前提」(長谷川一明JR西社長)というように、コロナ禍前に完全に戻らない部分は残りそうだ。
電気代など動力費の高騰も負担だ。JR東日本の場合、23年3月期の動力費は前期比49%増の913億円と、コロナ前に比べて4割ほど多くなり、24年3月期も1090億円に膨らむと見込む。
足元も、ひとまず順調だ。JR6社の5類移行直前のゴールデンウィークの利用実績(4月28日~5月7日)は、新幹線と在来線特急などの主要線区を利用した人が前年比1.32倍の1100万1000人となった。コロナ禍前の2018年比で0.94倍にまで回復している。
航空も、ANAHDとJALの2社のゴールデンウィーク期間(4月29日~5月7日)の利用実績も、国内線は前年比1.2倍の279万3000人と、18年比9割を超えた。ただ、国際線は前年比では2.9倍の38万9000人になったものの、18年比ではまだ6割台にとどまっている。
コロナ「5類」移行で、人の移動が増え、追い風に
連休明けの5月8日にコロナの国内での感染症法上の分類が、季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行した。
特に航空業界では、帰国時にワクチン接種証明や陰性証明が必要なくなることから、「日本人がもっと動くことにつながる」(2日、赤坂祐二JAL社長)と期待が膨らむ。JR各社にも、国内の旅客増など追い風になりそうだ。
とはいえ、テレワークをはじめとする働き方の変革がどう展開していくか、運輸各社は読み切れずにいる。航空、鉄道とも、ビジネス客の動向がカギを握るとして注視しているが、このまま回復の道を順調に歩むのか、予断を許さない状況が続きそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)