営業の最終ステップ「クロージング」の前に...成約させるには「値引き」してもいいものなのか?(大関暁夫)

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   今回は、営業の5ステップにおける第4ステップ「セールス(プレゼンテーション)」から最終ステップ「クロージング」へ移行する際に、いかにして成約確率を高めるかという点についてお話します。

なぜ「セールス」から、間髪を入れずに「クロージング」に移るべきなのか?

   「クロージング」とは、「セールス」を受けて、提案に対する応諾を相手から引き出すステップのことです。このステップの存在をしっかり意識しているか否かによって、成約の確率は大きく異なると、最初に理解してください。

   すなわち下手な営業の場合、「セールス」はしたものの、成約に向けた「クロージング」をすることなく相手の返事を待つ、ということになりがちなのです。これではせっかく工夫した「セールス」もしっぱなし状態であり、相手に下駄を預けすぎているとも言えるのです。

   ならば、あるべき「クロージング」は、極力「セールス」と一体でおこない、「セールス」の場から間髪を入れずに「クロージング」に移ることが大切です。言い換えると、「セールス」と「クロージング」はセットで実行することが好ましい、ということになります。

   ようするに、「売り込み」をして後日の先方からの回答を待つのではなく、「売り込み」終了後に「応諾を迫る」というステップを続けておこなうのがベターなのです。

   もっとも、「応諾を迫る」ためには、単純に応諾を懇願するのでは意味がありません。応諾を促すような仕掛けや工夫を、用意することが必要です。

   応諾を促すような仕掛けや工夫とは、たとえばデモ機の貸し出しであるとか、原価での主要部分設計図面の作成であるとか、同じく原価での具体的な効果測定であるとか、相手に必要以上の負担を強いずに、より自社製品や自社サービスを利用するメリットを実感してもらえるようなオプション提案を用意するのです。

オプション提案だけは、その場で受け入れてもらう「小さな応諾」がほしいワケ

   そして、とりあえずそのオプション提案だけは、原則その場で受け入れてもらう「小さな応諾」を取り付けます。すなわち、提案本体の諾否をオプション実行後に先延ばしにしつつも、オプション実行により、相手をこちらに引き寄せて成約確率を高くさせるのです。

   これは「セールス」ステップを「セールス」だけで終わらせずに、同時に部分的な「お試し提案」や「導入提案」を受け入れさせることで、一歩手前に相手を導く「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」と呼ばれるものです。

   一度開いたドアを簡単に閉めさせないように、ようやく開いた隙間に足を挟み込んでドアを閉めさせない、という意味から名付けられたものです。

   「セールス」ステップを「セールス」だけで終わらせてしまった場合、諾否回答をもらうまでの時間は相手にとっては、提案を本当に受け入れていいのか、何か問題があるのではないかという、ネガティブな検討を加える時間に他ならないのです。

   すなわち、「セールス」から諾否回答までの時間を長くすれば長くするほど、ネガティブな検討の量が増えるわけで、成約の確率は下がってしまうとも言えるのです。

   そうさせないためには、「セールス」内容だけで諾否を判断させずに、オプション実行を付加することで、具体的なポジティブ材料を提供する。こうしてネガティブな検討材料を減らしてしまうことが、最も効果的なやり方になるのです。

   ですから営業チームとしては、「セールス」実行前に個々のセールス提案について、「小さな応諾」材料となるオプション提案を検討することが重要になるのです。

「値引きありき」の営業はよくないが、例外的に「値引き」してもいいケースとは

   さらにもうひとつここで重要なことは、オプション提案部分について原則その場で応諾をもらうために、「セールス」の場に、より最終決裁者に近い人を「引っ張り出す」ことです。

   以前の記事でも、「セールス」の前段である「ヒアリング」ステップの目的として、真のニーズの聞き出しと共に、セールス提案の予算規模が相手の社内決裁上、誰が決裁権限者になるのかを聞き出すことであると申し上げました。

   それは、「セールス」の場により決裁権限者に近い人から、「セールス」当日のオプション提案に「小さな応諾」をもらうためなのです。

   「小さな応諾」材料となるオプション提案が、どうしても考えつかない場合はどうするのか。その対策は、極力「セールス」から諾否回答までの時間を短くすることです。

   たとえば翌日中、遅くも3日後には回答リミットを設定するとか――こういった努力は必要です。黙って相手の言いなりで一週間後を回答期限にするなら、その一週間は相手社内でネガティブ・キャンペーンが展開されることは間違いなく、提案成約の確率は大きく下がるでしょう。さらに、回答期限も設けず相手の意向に任せるなどは、成約放棄にも等しいと考えるべきなのです。

   ではどうやって諾否回答までの時間を短くするのか、です。ここで初めて、営業活動において禁断といえる「値引き」の検討が登場します。

「期限付きですが、弊社社長のOKを取り付けましたので、明日中に応諾をいただければ、設計費用を無料とさせていただきます」

   こうすることで、期限付値引き提案が有効となるのです。筆者は常々、「値引きありき」の営業は営業力向上の足を引っぱるダメ営業である、と申し上げているのですが、このように回答期限を設けて応諾回答を引き出すための値引き活用は、例外的に可能であると考えます。(大関暁夫)

大関 暁夫(おおぜき・あけお)
株式会社スタジオ02 代表取締役 企業アナリスト
東北大学経済学部(企業戦略論専攻)卒。1984年、横浜銀行に入行。現場業務および現場指導のほか、出向による新聞記者経験を含めプレス、マーケティング畑を歴任。全国銀行協会出向時には対大蔵省(当時)、対自民党のフロントマンも務めた。中央林間支店長に従事した後、2006年に独立。銀行で培った都市銀行に打ち勝つ独自の営業理論を軸に、主に地域金融機関、上場企業、ベンチャー企業のマネジメント支援および現場指導を実践している。
メディアで数多くの執筆を担当。現在、J-CAST 会社ウォッチ、ITメディア、BLOGOS、AllAboutで、マネジメント記事を連載中。
1959年生まれ。
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