デフォルト回避でも、2011年の苦い前例「米国債格下げ」の恐怖
2011年に発生した同様の事態の苦い経験から、仮にデフォルトを回避しても深刻な金融危機が起こると指摘するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏のリポート「債務上限問題で米政府がデフォルトに陥るXデーが近づく:景気悪化や銀行不安再燃の引き金にも」(5月9日付)によると、2011年に草の根保守運動の「ティーパーティー」の支援を受けた共和党が、オバマ政権と激しく対立していた。
当時、デフォルトが生じる期限である8月2日当日、与野党間の交渉で債務上限問題はなんとか解決された。それを受けて、ムーディーズは政府債務格付けAaaの据え置きを発表した。ところが3日後、S&Pが米政府の財政赤字削減への対応が不十分であるとして、米国長期発行国債格付けを「AAA」から「AA+」に引き下げた。
世界で最も信用力が高いとされた米国債の格下げは、金融市場に大混乱をもたらした。株価は大幅に下落、それが消費者心理の悪化を通じて、経済に悪影響を与えた。一方、格下げされた米国債自体は、安全資産としてむしろ買われた。
こうしたことから、木内氏はこう指摘する。
「当時と比べても米国債市場のマーケットメイクの機能が低下していることなどから、再び米国債が格下げされれば、今度は、米国債は売り込まれるとの見方がある。その場合には、世界的な長期金利の上昇が生じ、金融市場の混乱はより深まるのではないか」
「米国債の格下げで長期金利が上昇すれば、銀行が保有する債券の含み損が再拡大し、銀行不安が再び強まる可能性があるだろう。また、それは、経済にも大きな打撃となるだろう」
「米国経済に後退リスクが高まる一方、銀行の経営不安が続く現状下での債務上限問題は、前回の2011年以上に、米国の経済や金融に甚大な悪影響を与えてしまう可能性が考えられる。この問題は、米国に留まらず、世界の経済、金融市場、金融システムの安定を脅かしかねない大きなリスクと考えておくべきだろう」
(福田和郎)