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「債務上限問題」でバイデン大統領「G7」欠席か どうする岸田首相、どうなる世界経済? エコノミストが指摘「2011年の恐怖以上の危機がやってくる」?

   「債務上限問題」で米国政府がデフォルト(債務不履行)に陥る「Xデー」が迫るなか、2023年5月9日(米国時間)、バイデン大統領と野党共和党幹部らとの会談が物別れに終わった。

   共和党側は債務上限に対応する条件として、厳しい歳出削減を求めているが、バイデン政権は歳出削減を伴わない無条件の債務引き上げを求めており、大統領選を控え、両者一歩も引かない構えだ。

   バイデン大統領は問題解決を最優先するとして、広島G7サミットに欠席する可能性に言及した。バイデン氏が来なかったら、どうする岸田文雄首相? デフォルトになったら、どうなる世界経済? エコノミストの分析を読み解くと――。

  • 世界金融危機のリスク?(写真はイメージ)
    世界金融危機のリスク?(写真はイメージ)
  • 世界金融危機のリスク?(写真はイメージ)

バイデン大統領「米国は借金を踏み倒す国ではない」と強気の姿勢

   米国では、財政規律を守るため政府が国債などを発行して借金できる上限をあらかじめ議会が定めている。その米政府債務が31兆4000億ドルの法定上限に達し、議会で上限引き上げなどを決めなければ、政府がデフォルト(債務不履行)に陥る「Xデー」6月1日が近づいてきた。

   こうしたなか、バイデン大統領は5月9日、ホワイトハウスで野党・共和党のマッカーシー下院議長ら議会指導部と会談、上限引き上げに向けて協力を要請した。しかし、会談は双方が従来の主張を繰り返しただけに終わり、5月12日に再会談を行うが、決着がつくか極めて厳しい情勢だ。

   会談後、マッカーシー議長は記者団に対し、「上限引き上げには大規模な財政支出の削減が必要だ」と改めて強調、「協議に進展はなかった」と述べた。

   一方、バイデン大統領は、「米国は借金を踏み倒す国ではない」「上限引き上げは、いま最も重要な問題だ」と述べ、問題が解決しなければ5月19日からのG7を欠席する可能性を示唆し、共和党に譲歩しない強気の姿勢を示した。

   日本政府は大慌てだ。5月10日、松野博一官房長官は記者会見で「米国政府から本件にかかる通告などは一切受けていない。いずれにせよG7広島サミットでは、米国とも緊密に連携し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くとの意思を力強く世界に示したい」と述べるにとどめた。

米国のデフォルトは、金融市場の大混乱と世界経済悪化を招く

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債務上限問題をG7より優先するバイデン大統領(ホワイトハウス公式サイトより)

   今回の事態をエコノミストとはどう見ているのか。ヤフーニュースコメント欄では、日本総合研究所上席主任研究員の石川智久氏は、

「米国の債務支払い能力ではなく、債務上限問題という技術的なデフォルトとはいえ、デフォルトであることには変わりはなく、世界的に金融市場の大混乱が予想されます。
また、世界経済の急激な悪化にとどまらず、米国の威信にかかわります。もちろん、社会保障や公務員の給料などを先送りして、利払いを優先させることもできるのですが、その場合は、金融市場の動揺は回避できても、米国内で社会不安が高まることが懸念されます」

と説明。そのうえで、

「米国の債務問題は、社会保障支出の増加や利上げによる利払い費増などもあり、今後も悪化する可能性が高く、引き続き世界の金融リスクになるとみられます」

と、今後も繰り返しリスク要因になると指摘した。

   同欄では、上智大学総合グローバル学部学部長の前嶋和弘教授(現代米国政治・外交)は、

「確かに債務上限問題はG7出席よりも国内問題としては重要。おそらく国際的な影響を考えても、債務上限問題はG7より大きい。『G7欠席の可能性』がどれだけマッカーシー下院議長に対する牽制になるのかどうかという部分はみえないのですが、それでも共和党側は妥協しないかもしれません」

と、バイデン大統領のG7欠席はやむを得ないとした。

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債務上限問題を警戒するウォール街

   同欄では、成蹊大学法学部政治学科の西山隆行教授(比較政治・米国政治)も「債務上限問題」はG7より大きい、とみる。

「米国の二大政党が債務上限問題で妥協することができずにデフォルトになると、世界経済に甚大なる影響を及ぼすとともに、米国の信頼が揺らぎます。バイデン氏がG7よりもこちらを重視するのは当然の判断ですが、連邦議会下院共和党内の強硬派がデフォルトも辞さない非妥協的な態度をとっているので、問題を回避できるかは不透明です」

   こう指摘した。さらに、

「仮に今回問題を回避したとしても、今後も同様のリスクを抱え続けることになるため、抜本的な改革ができないかという問題提起も行われるようになっています」

   と、債務上限問題は米国政治の「がん」だとした。

バイデン氏には「憲法14条」という「伝家の宝刀」があるが...

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米国国旗

   一方、明るい材料もあると指摘するのは、米州住友商事ワシントン事務所調査部長の渡辺亮司氏だ。同氏はヤフーニュースコメント欄で、

「今やバイデン政権はすべての行動を2024年大統領選への影響に基づき判断。債務上限問題の対応を誤れば、経済悪化で自らの再選を阻むリスクがある。本日のバイデン氏とビッグ・フォー(上下両院の民主党・共和党トップ4人)の会談成果は、協議を継続することに合意したことのみ。これまでバイデン氏は交渉を拒否していたことからも、Xデーが迫るなか、協議継続は好材料」

   と指摘。そして、今後の展開をこう予想した。

「デフォルトに陥ることもいとわない下院共和党の保守強硬派の票をマッカーシー下院議長は頼りにせず、下院民主党議員の一部の協力を得てデフォルト回避の可能性も高まっている。
だが、その選択では同氏は保守強硬派により議長職解任に追い込まれるかもしれない。なお、憲法修正第14条を大統領が発動し、デフォルトを回避する手法も議論が活発化している」
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ホワイトハウス

   実は、米国憲法修正第14条第4項には、「法律により授権された合衆国の公の債務の効力は、(中略)これを争うことはできない」との条文がある。これを根拠に、法定債務上限を超えて政府は国債発行を継続できるとする憲法学者もいる。

   つまり、大統領にとって「伝家の宝刀」になるわけだが、これについては憲法学界でも政界でも見解が分かれている。

   イエレン財務長官は、「債務上限問題は議会で解決されるべき問題である」として、仮に国債発行をめぐり大統領が宝刀を抜けば、違憲か合憲かの大論争になり、「米国は憲法上の危機に直面する」と警鐘を鳴らしているのだ。

デフォルト回避でも、2011年の苦い前例「米国債格下げ」の恐怖

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米国連邦議会議事堂

   2011年に発生した同様の事態の苦い経験から、仮にデフォルトを回避しても深刻な金融危機が起こると指摘するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

   木内氏のリポート「債務上限問題で米政府がデフォルトに陥るXデーが近づく:景気悪化や銀行不安再燃の引き金にも」(5月9日付)によると、2011年に草の根保守運動の「ティーパーティー」の支援を受けた共和党が、オバマ政権と激しく対立していた。

   当時、デフォルトが生じる期限である8月2日当日、与野党間の交渉で債務上限問題はなんとか解決された。それを受けて、ムーディーズは政府債務格付けAaaの据え置きを発表した。ところが3日後、S&Pが米政府の財政赤字削減への対応が不十分であるとして、米国長期発行国債格付けを「AAA」から「AA+」に引き下げた。

   世界で最も信用力が高いとされた米国債の格下げは、金融市場に大混乱をもたらした。株価は大幅に下落、それが消費者心理の悪化を通じて、経済に悪影響を与えた。一方、格下げされた米国債自体は、安全資産としてむしろ買われた。

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固唾を飲んで見守るニューヨーク証券取引所

   こうしたことから、木内氏はこう指摘する。

「当時と比べても米国債市場のマーケットメイクの機能が低下していることなどから、再び米国債が格下げされれば、今度は、米国債は売り込まれるとの見方がある。その場合には、世界的な長期金利の上昇が生じ、金融市場の混乱はより深まるのではないか」
「米国債の格下げで長期金利が上昇すれば、銀行が保有する債券の含み損が再拡大し、銀行不安が再び強まる可能性があるだろう。また、それは、経済にも大きな打撃となるだろう」
「米国経済に後退リスクが高まる一方、銀行の経営不安が続く現状下での債務上限問題は、前回の2011年以上に、米国の経済や金融に甚大な悪影響を与えてしまう可能性が考えられる。この問題は、米国に留まらず、世界の経済、金融市場、金融システムの安定を脅かしかねない大きなリスクと考えておくべきだろう」

(福田和郎)