就職先や転職先、投資先を選ぶとき、会社の業績だけでなく従業員数や給与の増減も気になりませんか?
上場企業の財務諸表から社員の給与情報などをさぐる「のぞき見! となりの会社」。今回取り上げるのは、デジタルマーケティング支援事業を展開するAViC(エイビック)です。
創業者で代表取締役社長の市原創吾氏は、2009年に青山学院大学理工学部を卒業後、サイバーエージェントに入社、2015年には28歳の若さで広告部門の局長に就任した人物。同社を退社後、2018年にAViCを立ち上げ、2022年6月には「創業4年3ヶ月」で東証グロース市場にスピード上場を果たしています。
2023年5月1日には、女優の中条あやみさん(26歳)が市原社長(36歳)との結婚を発表して話題となりました。
なお、市原氏は、AViCの総発行株式の38%を所有する筆頭株主。「資産34億円のIT業界の風雲児」とする報道もありますが、これは株式公開時の持株比率44.07%と、株価が一時跳ね上がった2022年11月の時価総額約79億円に基づくもので、現在の時価総額は約63億円に下がっています。
2022年9月期は前期比1.8倍の増収、2.6倍の増益
それではまず、AViCの近年の業績の推移を見てみましょう。
2018年3月に創業したばかりのAViCですが、業績は急速に伸びています。2018年9月期にはわずか3800万円だった売上高は、3年後の2021年9月期には13億円あまりに成長しました。
2022年9月期の売上高は期首計画を上回る12.4億円とわずかに前期比減となりましたが、これは「収益認識に関する会計基準」の適用により、売上高の集計方法が変更になったためです。
これは従来の売上高から、運用型広告業務における媒体費を引いた金額を売上高とするもの。この基準による2021年9月期の売上高は6.8億円、2022年9月期は前期比1.8倍の増収となります。
また、2022年9月期の営業利益は前期比で2.6倍、営業利益率も9.1%から25.4%へと大幅に改善。当期純利益は2億円を超えています。
主要な顧客は、2021年9月期はニューアート・シーマ(総合ブライダルサービス企業)が売上高1.45億円、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(博報堂系のインターネット広告代理店)が同1.38億円でしたが、2022年9月期は売上高の10%以上の顧客はありませんでした。
2023年9月期の業績予想は、売上高が17.10億円、営業利益が4.18億円、営業利益率が24.4%、当期純利益が3.10億円で、いずれも前期比30%以上の増加と見込まれています。
「運用型広告」と「SEOコンサル」の2本柱
AViCはデジタルマーケティング事業の単一セグメントですが、大きく分けてインターネット広告サービスと、SEOコンサルティングサービスの2つのサービスを提供しています。
インターネット広告サービスで扱うのは、主にインターネット広告市場の68%を占める「運用型広告」で、GoogleやYahoo!上に表示される検索連動型広告や、GoogleやYahoo!、LINE上に表示されるディスプレイ広告、FacebookやTwitter、TikTok上に表示されるインフィード広告が含まれます。
AViCは、メディア運営会社から広告枠を仕入れ、クライアントに販売します。その対価として、クライアントから媒体費とコンサルティング手数料を収受し、メディア運営会社に媒体費を支払います。
なお、市原社長は前職のサイバーエージェントで一貫して運用型広告の事業に携わっており、この分野に精通しているとのことです。
SEOコンサルティングサービスは、検索エンジン最適化による成果のシミュレーション提示と、ウェブサイト内記事ページの企画・制作を行っており、その対価としてコンサルティング手数料や記事コンテンツ制作料などを収受しています。
サービスごとの売上高比率は、インターネット広告が7.9億円で64.2%を占め、SEOコンサルティングが4.4億円で35.8%となっています。
従業員51人、平均年齢30.8歳、平均年収625.3万円
AViCの従業員数は、2018年9月にはわずか5人でしたが、2019年9月期から10人、21人、31人と順調に増えています。2022年9月期には51人となりましたが、それでも「受注・執行体制」の不足により、案件を断る事例が複数件発生したということです。
なお、51人の内訳は、新卒入社が21人と新卒比率が高いのが特徴。自社開発ツールの活用と仕組み化されたアプローチに基づく育成により、未経験社員がスピーディに戦力化し、生産性が維持・向上されているとのことです。
2022年9月末の従業員の平均年齢は30.8歳、平均勤続年数は1.67年、平均年間給与は625.3万円です。なお、会社は社員一人あたりの生産性(取扱高)を重視しており、2021年9月期の4280万円から、2022年9月には6660万円に増えています。
AViCの採用サイトには新卒採用のほか、「運用型広告コンサルタント」と「SEOコンサルタント」「経理責任者」の中途採用求人が掲載されています。
運用型広告コンサルタント(幹部候補)の想定年収は700万円以上(45時間分の固定残業代制)。営業目標を持っている部門の社員には、月次の達成度に応じて営業インセンティブが支給。全社員対象の全社業績インセンティブもあります。
勤務地は東京・赤坂のアーク森ビル4階。携帯代補助や家賃補助、社員旅行、ストックオプション付与などの福利厚生制度もあるようです。
創業を支えた岩田氏は元博報堂
2022年6月30日に上場したAViCの株価は公開価格1020円に対し1266円の初値がつきましたが、翌月に1000円を割り込みました。その後、11月に1400円まで上昇、再び下がった後で2023年2月には1500円をつけましたが、現在は1000円前後を推移しています。
AViC創業の経緯はやや複雑で、2013年に岩田匡平氏(バイセルテクノロジー〔東証グロース〕社長兼CEO)の妻が設立した会社が源流となっており、この会社の全株式を2014年に岩田氏が取得。さらに2018年3月、市原創吾氏を割当先に第三者割当増資を行いました。
これと同時に、岩田氏が退任。社名を現社名、事業内容をデジタルマーケティングの提供に変更し、市原氏が代表取締役社長に就任して実質的な創業となりました。
なお、岩田氏は、サイバーエージェント時代に一緒にクライアント企業に常駐していた博報堂の担当者で、2019年12月には社長として東証マザーズに上場を果たした人物です。現在も市原氏に次ぐAViCの大株主で、発行済株式の24.79%を所有しています。(こたつ経営研究所)