パウエル議長自身が、銀行不安の火に油を注いでいる
一方、市場が期待する利下げの可能性は、銀行不安がさらに拡大し、マイナス成長にまで景気後退した場合しかないだろうと警鐘を鳴らすのは、大和総研ニューヨークリサーチセンター主任研究員の矢作大祐氏だ。
矢作氏はリポート「FOMC 今回の利上げをもって一旦打ち止め 更なる利上げはデータ次第。早期の利下げ転換はハードルが高いか」(5月8日付)のなかで、こう述べる。
「市場の期待が高い2023年内の利下げの可能性に関しては、景気やインフレ見合いとなる。パウエル議長は、インフレが想定以上に迅速に減速していかない限り、可能性は低いと考えているようだ。利下げ可能性を高めるとすれば、銀行不安の更なる広がりに伴うマイナス成長といった、景気の想定以上の下振れだろう。ただし、利下げが可能になるとはいえ、市場も銀行不安のさらなる広がりは本望ではないだろう」
また、矢作氏は「FOMC自体が銀行不安のさらなる広がりのきっかけとなり得ることに注意を要する」と指摘する。いったい、どういうことか。
「記者会見でパウエル議長が、前述のとおりインフレ減速なき利下げに対して慎重な姿勢を示したことで、銀行セクターの直面するストレスが継続するとの市場の認識が強まり、中堅銀行の株価が落ち込んだ」
「こうした株価の下落が進めば、預金者は銀行の経営に対して不安を抱き、預金の引き出しを進め得る。預金の引き出しが進めば、銀行の手元流動性不足に対する市場の疑念は強まり、株安がさらに進むことも考えられ得る。こうした不安心理のスパイラルに陥ることが最終的には、さらなる銀行の経営破綻へとつながるだろう」
そして、矢作氏はこう結ぶのだった。
「インフレの高止まりリスクがある中で、FOMCとしても拙速な利下げの示唆は難しい。しかし、銀行不安の行く末はこうした市場と預金者の不安心理次第でもあることから、事態の沈静化を図るうえでもFOMCは慎重なコミュニケーションが不可欠となっている」