金融危機再燃の不安が高まるなか、FRB(米連邦準備制度理事会)は2023年5月2、3日に開催したFOMC(米連邦公開市場委員会)で、政策金利を0.25%引き上げた。
銀行破綻の連鎖を防ぐことより、歴史的なインフレ退治を優先させたかたちだ。しかし、「追加利上げ停止の示唆」と受けとめられる声明を出したため、一気に「年内に利下げが行われる」との観測が株式市場で織り込まれた。
揺れ動くFRBの判断。米国経済はどうなるのか? エコノミストの分析を読み解くと――。
「債務上限」で浮上した新たな危機、米政府のデフォルト
FRBが政策金利を0.25%引き上げた一方で、5月5日に発表された4月米雇用統計は米雇用関係の強さを改めて示す内容となった。
失業率は1969年以来という3.4%にまで低下。これはほぼ「完全雇用」状態に匹敵する。賃金インフレを読むうえで重要な平均時給も、前月比プラス0.5%、前年比プラス4.5%と、賃金上昇圧力のしぶとさを印象付けた。
こうした賃金上昇は、物価上昇に直結する。そのため、「インフレ退治」を最優先するFRBとしては、利上げを進めて経済活動を停滞させ、物価と賃金上昇を抑え込まなくてはならないが、さらなる金融引き締めは、リスク管理に問題のある銀行をあぶり出す危険性をはらんでいる。
今回のFRBの追加利上げ決定と米国雇用統計の結果について、エコノミストはどう見ているのだろうか。
ヤフーニュースコメント欄では、ソニーフィナンシャルグループのシニアエコノミスト渡辺浩志氏が、
「インフレ退治の金融引き締めが金融不安を招くなか、FRBは金融の安定と物価の抑制の両立を迫られています。とはいえ、利上げ開始から1年あまりが経過してもなお力強い雇用と低い失業率が続いており、インフレの粘着が強く警戒されるところ。今般の金融不安が金融危機に発展しない限り、FRBはインフレ退治を優先し、引き締め的な金融政策を継続する公算です」
と指摘。そのうえで、
「もっとも、政策金利(5.1%)は米国経済が耐え得る水準(名目潜在成長率、4%)を超えており、オーバーキルも警戒されます。今般の金融不安も銀行の貸出態度の厳格化や信用収縮を通じて景気の谷を深くする恐れがあります。インフレと景気後退が同時に進むスタグフレーションに陥る恐れも。その場合、FRBは容易には金融緩和に転じられず、金利の下げ渋りと業績悪化で株式市場には逆風が吹きます。早期利下げによる株高(金融相場)のシナリオは修正が必要でしょう」
と、早期の利下げを期待する金融市場の甘さを批判した。
同欄では、上智大学総合グローバル学部学部長の前嶋和弘教授(現代アメリカ政治外交)が、もう1つの危機に警鐘を鳴らした。米政治を揺るがしている「債務上限問題」だ。
「3.4%という低失業率は1969年ぶりという記録的な数字。コロナによるサプライチェーンの崩壊が直るとともに失業率も改善してきました。
ただ、本格的な景気後退期に入ってくるという見方も根強く、不安感から先日の中堅銀行の相次ぐ破綻も実際の影響よりも大きく報じられる傾向にあります。
また、何といっても今年のアメリカ政治の最大の争点である債務上限引き上げをめぐる駆け引きの展開次第では、世界経済を巻き込むような大きな事態も懸念されます」
「債務上限」とは、米連邦政府が国債などで借金できる債務残高の枠のこと。債務が上限に到達すると、議会の承認を得て、上限を引き上げなければ新たな国債を発行できずに債務不履行(デフォルト)に陥る。すると、金融市場に大混乱が起こる可能性がある。
しかし、議会ではバイデン政権と野党共和党との対立が続いており、主張の隔たりが大きい。財務省が資金繰りに行き詰まる「Xデー」が6月1日に迫っている。
5月9日にバイデン大統領は共和党幹部と話し合いを持つが、共和党内には民主党との妥協に断固反対する保守強硬派「フリーダム・コーカス」(約30人)がおり、先行きは不透明だ。