雇用状況の背景には、補助金や交付金削減など大学経営の厳しさも
また、特例対象者の研究者のうち、2022年度末で通算契約期間10年を迎える者は969人。所属機関別の内訳では、国立大学が491人、公立大学が65人、私立大学が54人、大学共同利用機関法人が7人、研究開発法人が352人となっている。
残念ながらこの調査は研究者に限ったものではないため、通算契約期間10年を迎える969人研究者の雇用契約が、その後どのようになったのかは判然としない。
だが、大学教員や技術者等を含めた通算契約期間10年を迎える者1万4029人の今後の雇用契約見通しでは、以下のようになっている。
特例による無期転換申込権発生前だが、2022年度中に無期労働契約を締結、もしくは予定が117人(全体の0.8%)、2023年度以降無期労働契約を締結する予定462人(同3.3%)と、無期限労働契約に切り替わるのは全体のわずか4.1%にとどまっているのだ。
さらに、2023年度以降も有期労働契約を継続する、もしくは継続の可能性がある6337人(45.2%)を合わせても、全体の49.3%と雇用が継続する可能性があるのは半数を下回る状況となっている。
こうした研究者等の雇用の厳しさは、少子化による大学への入学生の減少も含め、国からの補助金や交付金の削減など大学経営の厳しさが背景にある。
大学の研究状況を探る今回の連載において、3回までに取り上げた民間企業との共同研究の件数や研究資金の受入額、共同研究1件当たりや研究者1人当たりの研究費受入額で、決して潤沢な研究資金が大学の研究に投じられているわけではないことが明らかだ。
また、特許権件数や特許権収入などの状況により、十分な収入が得られているといえる状況ではないこともわかった。
そして、今回の調査結果で、研究資金だけではなく、研究者そのものも雇用の不安を抱えていることも明らかになった。
大学における研究が弱体化すれば、日本の基礎そのものの弱体化につながる。民間企業との共同研究などの活性化を含め、今後、一段の大学の研究機能の向上を図っていく必要がある。
◆鷲尾香一とさぐる混沌日本の歩き方~「日本の大学」シリーズ
【1】民間企業からの研究資金、どの大学が多く受けているか? トップの大学は167億円(鷲尾香一)
【2】民間企業から大学への研究資金...共同研究1件当たり&研究者1人当たり換算では「東大」が1位ではなかった(鷲尾香一)
【3】大学での研究成果はどれくらい「収入」に結びつくのか? 特許件数、特許権収入、知的財産権収入が多い大学ランキング(鷲尾香一)
【4】「働き方」に不安抱える大学の研究者...契約状況は「無期」と「有期」、どちらが多いのか?(鷲尾香一)