「1990年代後半以降の金融緩和策について、多角的なレビュー(検証)を行うことにした」
日銀は2023年4月27、28の両日、植田和男総裁の就任後初となる金融政策決定会合を開催。会合終了後の記者会見で植田総裁は、日本がデフレに陥ってから約25年にわたって続けてきた日銀の金融緩和策について、大規模な検証に乗り出す方針を打ち出した。
果たしてその狙いは何なのか。
ゼロ金利政策、量的緩和に植田氏「効果はあった」が、2%目標は「なかなか十分な成功を収めてこなかった」
植田総裁はレビューについて「特定の政策を打ちたい、政策を変更したいというようなことを念頭に置いたものではない」と何度も強調した。
レビュー結果が実際の金融政策に直接影響を与えるものではない、と予防線を張ったかたちだが、植田総裁の視線の先に金融緩和を正常化する「出口」に向けた議論があるのは明らかだ。
そのことは、会見での植田総裁の言葉からも透けてみえた。
植田総裁はゼロ金利政策や量的緩和といった1990年代後半以降に日銀が打ち出した「非伝統的金融政策」について「効果はあった」と前置きしたうえで、こう語った。
「2%のインフレ目標を達成するという意味では、なかなか十分な成功を収めてこなかった」
異次元緩和を含め、物価を押し上げる効果は薄かったとの基本認識があるのだろう。植田氏が「本音」をちらりと見せたのかもしれない。
植田総裁はレビューを通じ「効果が期待されたほどではなかったとすれば、どういう外的要因、あるいはやり方のまずさが影響したのかを分析する」とも述べた。
検証結果については「将来の政策にとって有益な知見を得る」「任期中に結果を出し、それを残りの任期で役立てる」ともしており、「特定の意図はない」との建前の説明とは裏腹に、実際には植田・日銀の金融政策に深く反映されることになりそうだ。
黒田前総裁時代の「検証」「点検」と、植田総裁の「レビュー」...どう違うのか?
デフレの長期化とともに、日銀の金融政策も、出口の見えない緩和の泥沼にはまった。次々と新たな緩和策を打ち出す一方で、政策の検証はおざなりにされてきた。
黒田東彦前総裁時代の日銀は2016年と21年に「検証」「点検」と称して、大規模な金融緩和にチェックを入れてはいる。しかし、いずれも確認作業はわずか数か月で終わった。黒田日銀はこの検証、点検の結果をもとに政策修正に踏み切っている。
ただし、あくまで緩和の大枠の中での修正であり、緩和路線そのものの是非に踏み込んで点検したわけではない。
植田・日銀は今回、あえて「レビュー」という新しいワードを使った。緩和方向の枠内での政策の微修正だった黒田・日銀時代の「検証」「点検」と混同されるのを避ける狙いがあるという。
「レビューには出口を見据えた植田総裁のしたたかな計算がある」
ある日銀関係者はこう指摘する。
4月の決定会合で植田・日銀はレビューを打ち出す一方で、黒田・日銀から引き継いだ現状の大規模な金融緩和策は当面、維持する方針を決めた。
日銀総裁の交替直後、ただちに金融政策の修正に踏み切れば、市場が混乱する恐れが強い。このため、足元の大規模緩和は据え置きつつ、レビューの形で出口に向けた知見を粛々と積み重ねる――植田氏の狙いがそんなところにあるというのが大方の見立てだ。
いつまでも続けるわけにはいかない「大規模緩和」...修正のタイミングはいつ?
植田総裁は現在の大規模緩和について「副作用も出ていることは認めざるを得ない」と明言しており、いつまでも「現状維持」を続けるわけにはいかない、と自覚していると見える。
日銀は経済界なども含め、日銀外からの知見をレビューに反映させる方針で、検証結果がまとまれば「正常化に向けた大義名分にもなる」(市場関係者)というわけだ。
むろん、問題は修正のタイミングだ。
政策変更、それも出口を見据えたものになれば、国内外に強いハレーションが起きかねないが、「レビュー」という奇策は、黒田・日銀が進めてきた大規模な金融緩和策に「待った」をかける妙手となる可能性もありそうだ。(ジャーナリスト 白井俊郎)