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心地よい場所からゴーアウトして、人生を変えよう!

   現在慣れ親しんだ世界(コンフォートゾーン)からゴーアウト(外に向かって出て行くこと)すると、思いもよらないキャリアが広がる――。

   そうと説いているのが、本書「GO OUT 飛び出す人だけが成功する時代」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)である。医師のかたわら起業した異色の著者のチャレンジングな生き方に大きな刺激を受けるだろう。

「GO OUT 飛び出す人だけが成功する時代」(坪田一男著)ディスカヴァー・トゥエンティワン

   著者の坪田一男さんは、株式会社坪田ラボ代表取締役CEO、慶応義塾大学名誉教授。2004年から2021年まで慶応義塾大学医学部眼科学教室教授。2015年、坪田ラボを創業し、2022年東京証券取引所グロース市場に上場させた。ドライアイ、近視、老眼の課題解決のための研究、開発を行っている。

「T型人材」になろう

   坪田さんは国家試験を受けるとき、日本の医師免許と米国の医師免許を同時に取ったり、医学部教授の任期中に慶應ビジネススクールエグゼクティブMBAに行ったり、スタートアップ企業を立ち上げたり、さまざまゴーアウトする生き方をしてきた。

   「人生100年時代」を迎えると、それまでの蓄積だけでは逃げ切ることもできず、引き出しが枯渇してしまう、と指摘する。そこで「T型人材」という、ジャンルを飛び出したキャリアを提唱している。

   もともとは、スタンフォード大学のチャールズ・A・オライリー教授とハーバード大学のマイケル・L・タッシュマン教授の共著「両利きの経営」(東洋経済新報社)で、企業における両利きとは「探索」=横軸と「深化」=縦軸が高次元でバランスした状態を指す。

   ひるがえって個人で考えると、一般的な日本のビジネスパーソンは、横軸も縦軸も短い「プチT型」がほとんどだという。

   深化して専門性を深めるのは基本中の基本で、面白い人に会いに行ったり、自己教育を加えたり、自力でゴーアウトして探索することが必要だ、と説いている。

外に出ることのメリット

   第2章では、外に飛び出すことで手に入る「もの」について、説明している。

   専門の「眼」の観点から、1日2時間外出することを勧めている。外に出れば近視にならないのではないかという仮説を立てた台湾では、今から7年ほど前に、小学生を休み時間に外に出るようにするプロジェクトを始めた。すると、近視率が下がったというのだ。

   すると、世界の研究者が、外出と近視予防の関係を調べるようになった。坪田さんら慶応義塾大学医学部眼科教室は、2017年に太陽光に含まれる紫の光(バイオレットライト=360~400ナノメーター)が近視と関係があることを突き止め、2021年にはそれが「OPN5」という「非視覚型光受容体」を介していることを見つけた。

   つまり、「OPN5」が活性化すると目の血流がよくなり、近視が予防できることがわかった。外に出ること、つまり「ゴーアウト」することは、目の血流がよくなることで、人間の健康に好影響をもたらすのだ。このほかにも、うつ病や認知症の改善効果があることもわかっているという。

   外部の会いたい人に、会いにいくことも勧めている。

   坪田さんは本や論文を読み、面白いと思うと躊躇なく、著者に会いに行くそうだ。コンサルティング会社、船井総合研究所(現船井総研ホールディングス)の創業者、船井幸雄さんやノーベル生理学賞・医学賞を受賞した山中伸弥さんらに会ったエピソードを披露している。

   「自分なんか無名だから会ってもらえない」と諦めず、手を尽くすことが大切だという。そう考えることこそ、コンフォートゾーンに安住している証拠で、そこからゴーアウトしない限り、会いたい人に会えることはないのだ。

エネルギーになるのは、「ごきげん」という楽観主義

   さらには、「コンフォートゾーンにいてもリスクはある」と指摘する。

   日本は世界の環境変化に気づかず、「失われた30年」が起こり、さらに失われ続けようとしている。

   ビジネスの現場で企業をけん引する立場の40代後半から50代前半の人たちは、自分たちがゴーアウトしなければならないことをわかっているのに、なんとか逃げ切れるだろうと考えているため、ゴーアウトしない、と批判している。

   せめて、企業に残っている間にできるだけT型人材の探索の部分を広げるよう、副業や兼業をするなど、自分を教育することを提唱している。

   そのエネルギーになるのは、「ごきげん」という楽観主義だそうだ。機嫌よく生きることで、ポジティブ戦略の人との出会いがあり、そこから「何か」が生まれる、と書いている。

   第3章では、「思い込みの外に飛び出す」こと。つまり、常識にとらわれないことを勧めている。1つの科に教授は1人というのが日本の医学部の常識だが、米国では複数いることも珍しくないそうだ。坪田さんは2年がかりで説得し、准教授の教授昇格を認めてもらった。

   そのおかげでイノベーションに注ぐ力が増え、MBAに通うこともできたという。自身が日本では異端であることを認識しながら、「世界においては中心的な考え方をしているかもしれない」と自負する。

   第4章では、「業界の外に飛び出す」ことにふれている。専門分野を拡張し掛け合わせることでチャンスは広がるという。

   坪田さんは、レーシックのクリニックを開き、男性も女性も若々しくなることを感じた。見た目だけではなく、実際に目の大きさがコンタクトレンズをしている人より平均で0.9ミリ大きくなっていることがわかり、米国の医学誌に論文を出した。

   このことからアンチエイジングの学問を知り、眼科からアンチエイジングや企業経営などの違う領域に飛び出すことができたという。

   必要なのはイノベーティヴな自分教育という坪田さんの基本は、年間200冊の読書で、ほとんどがノンフィクションだ。さらに英語で書かれた一次情報となる原著論文だ。そうしたインプットの後に、アウトプットすることで、さらにインプットに質が高まるという。

   ゴーアウトするのに「早すぎることも遅すぎることもない」という言葉が背中を押してくれるだろう。(渡辺淳悦)

「GO OUT 飛び出す人だけが成功する時代」
坪田一男著
ディスカヴァー・トゥエンティワン
1760円(税込)