きらびやかな夜景を望む、お台場のパーティー会場に、乾杯の掛け声が高らかにひびきわたった。その乾杯の発声と同時に、渋谷で活躍するユニットバンドのパンチのきいた演奏が会場中に流れる。その音楽に合わせてパーティーの盛り上がりは最高潮に達していった。
本書は、そんな印象的なイントロで開始されていく。
『リーダーが壁にぶちあたったら読む本』(神田和明著)あさ出版
考えや主義・主張が「ブレない」ことが大事
著者の神田さんが敬愛する人物の一人に、幕末の英傑と称される西郷隆盛がいる。行動のより所としていた『言志四録』の中に有名な一文がある。
「それは次のようなものです。『一灯を提げて暗夜を歩く。暗夜を憂うことなかれ。ただ一灯を頼め』。これは、暗夜で先が見えない夜道を歩く時でも、自分の手に持っている一つの提灯を頼りに、ひたすら迷うことなく前に進むことの大切さを説いています。当時は、明治新政権の発足にあたり、紆余曲折があった時代です」(神田氏)
「徳川慶喜の新政権参加を主張する山内容堂に手こずっていた大久保利通と岩倉具視に対して、西郷は『最後は刀一本あれば足りる』と言い放って覚悟を二人に促したというエピソードが残されています。そこにも、手段の善し悪しは別として、決めた道を、常にひたすら突き進むという強い決意を感じることができます」(同)
リーダーにとって必要な要素はいくつか存在するが、何が一番大切なのだろうか。神田さんはリーダーの必要要素を次のように挙げている。
「人の上に立つリーダーとして一番大切なことは、自分の考えや主義・主張が『ブレない』ことだと考えています。いくら『戦略的思考力』『人間的魅力』を兼ね備えていたとしても、残念ながら『考えがブレる』リーダーはメンバーからの信頼を得ることはできず、結果としてリーダーとしての力を存分に発揮することができません」(神田氏)
「部分的な戦略や細かな戦術は、状況に応じて臨機応変に変えていくことは構いませんが根本的な方針や考え方がころころ変わるリーダーは、部下からは信頼されることはありません。メンバーは日頃から上司のその点の言動を見ているものです」(同)
覚悟を決めると、とてつもない力を発揮する
なぜ、ブレない意思が重要か。それは、神田さんの経験により導き出されたものだった。
「いまの部署に異動になったとき、そのミッションの重さに、不安と責任が私の心にプレッシャーとなって重くのしかかっていました。それは『絶対に結果を出さなければならない』という責任感からくるものでした。最初は、各方面からの反対にあい、そのことによってなおさら気持ちが焦り、気分も落ち込む日々が続きました」(神田氏)
「あるとき、『なぜ自分はこんなに部長としての責任をプレッシャーとして感じるのだろうか』と冷静に考えてみました。そして、『失敗した時の自分の立場がどうなるのか』ということを恐れていたことに気がついたのです。人間の脳はネガティブ思考の考え方をすると言われていますが、私もその流れにどっぷり漬かっていました」(同)
ネガティブ思考は誰にでもあるものなので、その思考自体を気にすることはない。しかし、思考によって行動が阻害される危険性がある。
「どうなるか分からない結果をくよくよ考えるよりも、『いまやるべきこと・やらなければならないこと』に真摯に向き合うことがきわめて生産的だと考えました。また、(著者の神田さんが所属していた)サントリーグループの社風は、一生懸命にチャレンジして失敗する社員の方が、現状に甘んじて与えられたことだけをこなしている社員よりも評価される会社です」(神田氏)
「業績が上がらず失敗に終わったとしても、また次回の機会に、精いっぱい頑張ればいいだけじゃないか? そう考えているうちに、なんだか失敗することばかりを恐れてプレッシャーを感じている自分が小さく思えてきたのです」(同)
そう思った瞬間、ある「覚悟」ができたそうだ。覚悟を決めると、人間はとてつもない力を発揮することがある。神田さんによると、サントリーには社員を守る企業文化が存在するという。それがあるからこそ、高い目標に挑戦することが可能なのだろう。
本書を読むことで、「結果を出す強いチームづくりの秘訣」を理解できるのではないかと思う。(尾藤克之)