地域金融は「農耕型金融」を目指せ
地域金融がどう変わるべきなのか、豊富な事例を紹介しているのが、本書の読みどころだ。
山形大学大学院(理工学研究科)の小野浩幸教授は、2007年から、県内金融機関の職員を対象に、企業支援に必要な目利き、分析、解決を研修し認定する「産学金連携コーディネータ研修」を続け、2022年8月までに総受講生は750人を突破した。年間最大2000件近い企業相談に応じているという。
小野教授の「人口減少で持続可能性が問われる時代に必要なのは、闇雲に大規模な資金を貸し出す『狩猟型金融』ではなく、中小企業に付加価値をもたらし、課題解決や生産性向上に取り組み『農耕型金融』です」という言葉を、本書は紹介している。地銀と中小企業が連携した例がいくつも出ている。
たとえば、山梨県の中央本線小淵沢にある駅弁屋・丸政は経営不振に陥っていた。山梨中央銀行の小淵沢支店長はストップウォッチを手に弁当工場に乗り込み、生産ラインごとの作業時間を計測した。改善指導の結果、生産能力は3倍に向上した。従業員もコスト意識を持つようになり、最新の解凍機を導入、東京の百貨店への出店が可能になった。
地域にはファミリー企業が多い。日銀支店長のキャリアを捨て、ファミリービジネスを総合的にサポートする「フィーモ」を立ち上げた大澤真さんの取り組みも興味深い。
創業家の場当たり的、属人的な意思決定を防ぐために、「家族憲章」を制定してもらう。富山銀行とともに永続企業支援サービスを行った富山県のアルミ加工会社が将来を「見える化」した例が参考になる。
地銀において、金融庁が示した「リレーションシップ・バンキング」の概念による顧客への密着取引は困難だ。担当者1人につき、200社弱という地銀もある。これでは、数カ月に1回も訪問できない。
業況の厳しい企業を中心に、企業のサービス、商品の販路を開拓して、売上の増強を支援する、大分県の豊和銀行の「Vサポート」は、預金、融資と並ぶ「第3の本業」と位置づけられている。あえて対象支援を100アイテムに限定、95.9%が販路を拡大させている。
異次元での改革を進め、いちはやく旧来の銀行像から「卒業」しようとしているのが、北陸3県を地盤とする北國銀行を傘下に持つ北國ファイナンシャルホールディングスだ。
2021年5月には、勘定系システムをマイクロソフトのクラウドサービスに移行した。メガバンクを含めて初めてだ。しかも自前の開発部隊で実行、システムコストは数十分の一になったという。60歳までの出向延長と給与保証を行い、地域貢献の人材を輩出しようとしていることを評価している。