SNSによる「取り付け騒ぎ」の衝撃...米SVB経営破綻に思う 「ちょっとした噂話」「何気ない一言」の恐ろしさ(大関暁夫)

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   米国発の金融危機が、世界経済に大きな不安を投げかけています。

   3月にシリコンバレーバンク(SVB)が信用不安から経営破綻し、その余波で経営環境が類似していたニューヨークのシグニチャー・バンクも連鎖破綻。直近では、有力地銀のファースト・リパブリック・バンクにもその影響は及んで、預金が4割も流出して破綻するという異常な事態に至っています。

   また、その余波は欧州にも飛び火。以前より経営不安が噂されていたクレディ・スイスでも預金の流出が止まらず、スイス政府の仲介によってUBSがこれを救済合併することで沈静化をはかった、という事態も起きています。

筆者が体験した1998年の日本の「金融危機」、連日現場から悲鳴が...

   幸いこれまでのところ、日本では大きな影響は出てはいませんが、私は自身が経験した1998年に起きた日本の金融危機の嵐を思い出しました。

   それは、まだ金融機関の破綻処理ルールや預金保険制度の整備が進む前の時代。前年の北海道拓殖銀行、山一証券の相次ぐ経営破綻もあり、突如雑誌が日本長期信用銀行(以下、長銀)の大蔵省検査の不良債権分類データと共に同行の破綻懸念を書き立て、国民の金融不安に一気に火をつけるかたちとなりました。

   当時、国内の多くの金融機関では、今回の米銀やクレディ・スイスと同じく預金流出が止まらず、おろした多額の預金を自宅に現金で保管したり、あるいはより安全性が高いと思われた一部の大手銀行に移しかえなどする人が後を絶たないという、異常な状況に陥ったのです。当時、私が勤めていた大手地方銀行もその例に漏れず、連日預金残高が大幅に減少を続けるという危機的な状況になっていました。

   私は当時、本社で営業店を支援する営業企画部門にいたのですが、連日現場からは悲鳴に近い声が届いていました。

「預金を引き出すお客さんが引きも切らず、店の営業が立ちいかない」
「窓口担当の女子行員が、お客さまから罵声を浴びせられるかの如く応対され、銀行を辞めたいというスタッフが続出している」

   絶対つぶれないと思われてきた大手銀行長銀の危機は、噂が噂を呼んで「大手でさえ危ないのだから、地銀はもっと危ない」といった根も葉もない噂になって人々の間に伝播したのです。ほどなく銀行の破綻処理スキームが固まって、私の銀行は事なきを得ましたが、本当に恐ろしい体験でした。

   後に、大蔵省のキャリア官僚幹部から聞いて知った話があります。事の発端である長銀の不良債権データが雑誌にスパ抜かれたという常識ではあり得ない事が起きたのは、政権政党の大物政治家が国会に長銀頭取を呼んだ際の物言いがけしからんと、官僚に指示して雑誌にリークさせたのだということでした。

   一政治家の個人的な感情に任せた行動と、メディアの自身の影響力を省みない報道が世の中を不安のどん底に陥れた、そんな事件だったのです。

恐ろしい早さで「根拠のない悪い噂」は拡散 ビジネス、仕事の教訓に!

   今回の米SVBの件で、その発端は大口預金先企業が預金引き出しに動いたことが、ネットで噂を呼んで収拾がつかなくなったのだと言います。

   SVBはベンチャーを中心とした法人向けの銀行で、預金者には大口先が多く、その一部が預金の預け替えに動いただけで、大量の預金が流出して破綻に至ったという特殊な事情も絡んでいたようです。真っ先に連鎖破綻したシグニチャー・バンクに至っては、SVBと取引基盤が似ているということだけで、噂が噂を呼んだ結果の破綻と聞いています。

   ここで注目すべきは、米国政府がリーマンショックの反省もあり、即刻当該金融機関の預金全額保護を宣言したものの、破綻は防げなかったことです。これはネット時代の情報伝播速度が、あまりにも早くなったことを表しているように思います。

   今回この一件が日本に飛び火しなかったのは、あくまで日本にはSVBのような法人取引に特化した銀行がなかったということに尽きるでしょう。

   仮に、SVBがもし日本の地銀に近しい銀行であったなら、国内でもSNSで噂が噂を呼んで、経営基盤の弱い地銀に飛び火した可能性は否定できません。一行に経営危機の噂が出れば、今や日本においてもSNS等で急速に拡散され、恐ろしい早さで根拠のない悪い噂が日本中に拡散されることにもなるかもしれません。

   そうなれば、日本中の地銀で取り付け騒ぎが起きても、何ら不思議はないのです。

   思えば、90年代後半の金融危機は、政治家などの権力者や活字メディアが情報流布のカギを握っていたように思います。彼らの軽率な行動や報道があらぬ噂を呼んで、銀行を破綻に追い込むような事態を招きました。

   ところが今は、誰もが簡単に全世界に向けて情報発信ができる時代となり、情報源が必ずしも政治家やマスメディアでなくとも、市井のビジネスパーソンが発した言葉が、それを聞いた誰の手によってでもネットの世界を駆け巡らせることが可能なのです。

   「地元のA社社長が、B銀行は危ないって話していたよ」とか、「商工会メンバーのC社のD経理部長から、E銀行の預金を全額他に移す話を聞いた」とかのちょっとした噂話が、SNSなどで拡散されて一気に信用不安が発生する、ということも決してあり得ない話ではありません。

   ビジネスにおいてそれなりの立場で仕事している方は特に、自分の何気ない一言が本人の自覚がないまま想像だにしない大きな事態も招きかねない、そんな時代であるということを肝に銘じて、己の言動には細心の注意を払う必要があると思います。

   米国発の金融危機報道から、転ばぬ先の杖的にそんなことを思った次第です。噂の真偽にかかわらず取り付け騒ぎは、いつの時代も一度起こったら止めることは困難なことなのですから。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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