食品小売りや外食業をめぐる迷惑行為が後を絶たない。
2023年1月、回転すしチェーンのスシローで起こった「ペロペロ事件」が世間を騒がせたことは記憶に新しいが、その後も2月には「くら寿司」で類似した事件が発生したり、ファミリーマートでは男性店員が陳列している商品をかじり、そのままトレイに戻す様子を撮影した動画が拡散されたりした。
こうした迷惑行為や「バイトテロ」に、企業側は刑事・民事の両面から厳正に対処するなど対応を強化しており、実際に威力業務妨害などで逮捕されたケースも出てきた。
そうしたなか、「なぜ、炎上は繰り返されるのか -迷惑動画投稿がされてしまう構造を考える」と題したレポートを、ニッセイ基礎研究所生活研究部の研究員、廣瀨涼さんが2023年4月7日に同研究所のホームページで発表した。
後を絶たない「迷惑動画」炎上事件
羽目を外した男子高校生がテーブルの醤油さしや、レーンの上に積んであった湯呑みを「ペロペロ」なめまわした動画をSNSに公開したところ、瞬く間に拡散され「炎上」して社会から批判の的となった、スシローの「ペロペロ事件」。
その後、スシローは警察に被害届を提出。さらに男子高校生は、本名や通っている高校名をネットにさらされる事態となった。
いたずら半分に行った迷惑行為が、いかに大きな代償を払うことになるのか――。企業側は迷惑行為やバイトテロなどの悪質な行為に、法的措置を講じるなど、厳しく対処しはじめた。実際に威力業務妨害などで逮捕されたケースもある。
炎上によって迷惑行為を行った人は損害賠償を請求されたり、「デジタルタトゥー」として迷惑行為の動画がネット上に残り続けたりして、社会的制裁を受けることにもなる。
その一方で、スシローが事件の翌月に、全国の店舗でテーブル席と寿司を提供するレーンの間にアクリル板を設置された。また、全店を対象にテーブルに備え付けの食器や調味料に不安を感じた場合には、申し出によって、消毒済みのものと交換するなどの対応策を講じた。
このように、企業側も再発防止策のために、余計な手間やコストをかけざるを得なくなった。
「こうした悪ふざけは昔からあった」といえば確かにそうだが、スシローやくら寿司、ファミリーマートなどのバイトテロは、さすがに「度を越している」
ニッセイ基礎研究所の研究員、廣瀨涼さんはレポートで、
「SNSが普及する前は、2ちゃんねるのような匿名掲示板でユーザーが特定の迷惑行為を題材にスレッドを立て、その場で迷惑行為を行った人の個人情報を特定するなどの『炎上』のような行為が散見された。
また、実社会では地域社会の目が迷惑行為を表ざたにし、かつその『目』が抑止力になっていたが、昨今ではSNSの利用者の増加に伴い、かつては匿名掲示板で行われていたような特定行為や、その迷惑行為をわざと拡散し、世間の注目を集めるために迷惑行為を表ざたにさせようとする者もいる。
これは、正義感や迷惑行為を告発することで得られる承認欲求がモチベーションとなっているが、一方でSNSが今やマスメディアのように報道の機能として定着。迷惑行為が投稿への抑止力にも繋がっている」
と、良くも悪くも功罪併せもっているのがSNSの特性であるという。
親密な内輪だから「自分の仲間がチクるわけない」
じつは、これがSNSの厄介なところで、J-CAST 会社ウオッチ編集部の取材に廣瀬さんは、
「たとえば、ツイッターは利用者が勝手に投稿して拡散してくれるから、企業にとっては広告効果をもたらす良い面があります。しかし、投稿された情報が迷惑動画だったりすれば、悪いイメージが拡散されることになります。仮に悪意がなかった動画だとしても、投稿した当事者や企業の意図とは別に一人歩きしたり、新しい情報が昔の不祥事動画などを呼び起こしてしまい、それによって企業のイメージダウンや業務に差し障りが出てきたりします。
ただ、そうなっても企業が迷惑動画のための防衛策を講じるのは、かなり難しいでしょう。仮に防ごうと思えば、たとえば飲食店で店内の撮影を禁止にするとか、その程度の対応しかできないと思います。
一方、そうすることで、それまでSNSを見て来店していたお客が減るというマイナスの事態を招きかねません。SNSはプラスもマイナスも効果があります。そのような事態を、あらかじめリスクヘッジするのはかなり難しく、無理と言ってもいいかもしれません」
と解説する。
なぜ、このような炎上はなくならないのだろうか――。
廣瀬さんは、
「コミュニティにおける親密圏の存在が昨今の迷惑行為動画の投稿に繋がっていると考える。学生時代を思い出してほしい。休み時間に教室内で悪ふざけをしていたクラスメイトが、何人かいただろう。そこで行われたバカ騒ぎ、悪ふざけ、少々度を超えたいたずらは、他のクラスメイトが先生や大人に報告しない限り、公(問題)になるコトはなかった。構造としてはこれに近い」
と、流出する迷惑動画は現実社会における「内輪ネタ」「内輪ノリ」の延長とみる。
学校の休み時間に悪ふざけをしているノリのレベルがSNSに持ち込まれることで、非常識なモノや迷惑行為になっていく。そもそも、不特定多数のために動画を投稿しているのではなく、「特定の見せたい誰かがいる」ケースのほうが多いのかもしれない。
「親密な内輪だから、自分の仲間がチクるわけない」という、暗黙の信頼感が背景にある。
立て続けに模倣犯が現れるのが「お決まり」
では、なぜコミュニティの外に内輪ネタが漏れていくのか――。廣瀬さんは「推測」としながらも、考えられる理由として二つあげる。
一つは、内輪ネタを他のコミュニティに顕示したいと思うメンバーがコミュニティ内にいる可能性だ。「自分の友達にはこんなに面白いやつがいるんだぞ」とコミュニティ外の人に見せたいという欲求によって、投稿者の親密圏外の人にまでシェアされるケースが該当する。
もう一つは、コミュニティ内に「内輪のノリ」に対して不快感や疑問を抱き、その行為を問題視するために、あえてコミュニティの外に情報を拡散させようとするケースだ。
「そもそもSNSは顔見知りよりも社会的な人となりを知らない人と繋がるケースのほうが多いわけで、そのような投稿が顔見知り以外の人にリーチしてしまえば、その投稿は正義感や迷惑行為を告発することで得られる承認欲求を満たす対象へと変化してしまうのである」
廣瀬氏はそう分析する。
昨今のように、なんでも動画で残し、配信してしまう消費文化が定着しているからこそ、その場で完結させる予定だった悪ノリを、勝手に友だちが撮影、投稿して、シェアされてしまうケースが続出しているという。
レポートで、廣瀬さんは
「(SNSへの投稿が)ふだんから迷惑行為やモラルのない行動からエンターテインメント性を見出している層においては、何かの拍子でそれらが外にリークして炎上につながってしまっても何らおかしくない。併せてこのような炎上により有名になるコトや悪いことをすることがカッコイイという価値観を擁している者もおり、自分ならばもっと面白い(迷惑)行為ができると投稿。立て続けに模倣犯が現れるのもお決まりとなっている」
という。
さらに、廣瀬さんはJ-CAST 会社ウオッチの取材に、
「動画を投稿する側も、もちろん企業側も、インターネットは常にオープンな場所であるという認識をもつことが大事になっているとともに、ネットリテラシーの重要性が増していることをしっかり認識すべきです」
と話す。
「(迷惑動画の流出を)ネットリテラシーの低さに起因するとの指摘がありますが、もう一つ、社会性へのリテラシーの低さがあります。そもそもの行為を悪いことだとわかっていない、うっかり、たまたま、このくらい......。そんな軽い安易な気持ちが引き起こすのが迷惑動画です。SNSが生活に密着しているからこそ、無意識のうちに投稿している動画が迷惑動画につながります」
と続ける。
だが、廣瀬さんは、こう警鐘を鳴らす。
「迷惑動画による炎上事件は、今後も続くと思います」