大学の研究状況を「大学ファクトブック2023」などから見ていく連載の2回目は、共同研究の1件当たりの状況や研究者1人当たりの状況、そして、外国企業との共同研究の状況を取り上げる。
共同研究1件当たりの研究費受入額...1位「順天堂」、2位「藤田医科」、3位「東大」
1回目で取り上げた民間企業との共同研究の件数や研究資金の受入額などでは、すべての項目で東京大学が1位を独占したが、共同研究の1件当たりの状況、研究者1人当たりの状況を見ていくと、様相が大きく変わる。
まずは、民間企業との共同研究で1件当たりの研究費の受入額から見てみよう。
1位は順天堂大学の884万円、次いで、藤田医科大学の833万円となっている。共同研究の実施件数、研究費受入額などのすべてで1位だった東京大学は776万円で3位となっている。(表1)
1位の順天堂大学は共同研究受入額が1000万円以上の民間企業との大型共同研究では、実施件数、研究費受入額との7位。だが、1件当たりの研究費受入額では1位となった。2位となった藤田医科大学は、大型共同研究での実施件数、研究費受入額では20位にも入っていない。
民間企業との共同研究の件数や研究資金の受入額では、20位以内の多くは国立大学が占めていたが、1件当たりの研究費受入額では半数以上の11校が私立大学となっている。なかでも、特に藤田医科大学、関西医科大学、聖マリアンナ医科大学、北里大学、聖路加国際大学など医学系大学が多く入っている。
研究者1人当たりの研究費受入額...1位「東工大」、2位「名工大」、3位「東大」
ところが、研究者1人当たりの研究費受入額になると、再び、様相が変化する。
1位は東京工業大学の285万円、次いで名古屋工業大学の210万円となっており、東京大学は3位の206万円にとどまっている。(表2)
研究者1人当たりの研究費受入額が200万円以上なのは3位の東京大学まで。あるいは、100万円以上でも16位の横浜国立大学までで、それ以下は100万円を切っている。
上位20校中15校は国立大学で、2校は公立大学、私立大学はものつくり大学、慶應義塾大学、光産業創成大学院大学の3校のみだ。
また、1件当たりの研究費受入額では医学系の大学は多かったが、研究者1人当たりの研究費受入額では技術系大学が多く入っているのが特徴だろう。
外国企業との共同研究...1位「東大」でもわずか31件
民間企業との共同研究は何も、国内企業とだけ行われているわけではない。
そこで外国企業との共同研究の状況を見ると、1位の東京大学でも31件にとどまっている。9位の筑波大学、東京医科歯科大学、神戸大学までが10件と2ケタ件数だが、それ以下は1ケタとなる。(表3)
上位20位までには22校が入っているが、このうち国立大学が16校、私立大学が6校となっており、国立大学の比率が高い。1位の東京大学は民間企業との共同研究実施件数が1945件だったので、外国企業との共同研究件数の31件はわずか1.6%でしかない。外国企業との共同研究がいかにすくないかがわかる。
外国企業との共同研究費受入額は、東京大学が6億2097万円で1位、東北大学が4億9095万円で2位となっている。1億円以上の受入額となっているのは、7位の九州大学の1億1586万円までだ。上位20校中16校が国立大学となっており、私立大学は4校にとどまる。(表4)
1位の東京大学の例で見ると、民間企業との共同研究費受入額は150億8626万円に対して、外国企業との共同研究費受入額6億2097万円は4.1%にとどまる。
しかし、共同研究1件当たりの研究費受入額が776万円なのに対して、外国企業のケースでは1件当たりは約2003万円と国内企業を大きく上まわっている。
民間企業との共同研究の件数や研究資金の受入額などでは東京大学が1位を独占していたが、共同研究1件当たりや研究者1人当たりの研究費受入額では、東京大学以外の大学が1位となった。
では、研究はどの程度成果をあげ、利益をもたらしているのか。次回は特許権件数や特許権収入などについて取り上げる。【第3回につづく】
◆鷲尾香一とさぐる混沌日本の歩き方~「日本の大学」シリーズ
【1】民間企業からの研究資金、どの大学が多く受けているか? トップの大学は167億円(鷲尾香一)
【2】民間企業から大学への研究資金...共同研究1件当たり&研究者1人当たり換算では「東大」が1位ではなかった(鷲尾香一)
【3】大学での研究成果はどれくらい「収入」に結びつくのか? 特許件数、特許権収入、知的財産権収入が多い大学ランキング(鷲尾香一)
【4】「働き方」に不安抱える大学の研究者...契約状況は「無期」と「有期」、どちらが多いのか?(鷲尾香一)