「頭脳資本主義」で「低所得層」が分厚い社会に
メタバースの普及によって、頭脳資本主義は加速する。
そうなると、年収10万円以下の低所得層がいちばん分厚くて、中間所得層が少なく、高所得層はもっと少ないロングテール型の所得分布の社会になると見られる。
たとえるならば、ミュージシャンや芸人の世界はそうなっているが、それが一般化するのだ。井上さんは以前から、AI時代には国民全員に生活に必要な最低限のお金を給付する社会保障制度である「ベーシックインカム」が必要だと唱えてきた。
それが、メタバースの普及によって、ますますベーシックインカムがないと生活できなくなるという。誰もが頭脳を発揮して稼げるわけではないからだ。
ひるがえって、日本はどうなるのか。
日本はAI後進国であり、すでにメタバース後進国になりつつある、と警鐘を鳴らしている。このままでは、欧米や中国産のメタバースに席巻されそうだ。「日本人の大人は他の国の大人と比べてぶっちぎりで勉強しません」と批判、知的好奇心の低さはしみついたデフレマインドの影響もあると見ている。
そのためには、緩やかな「インフレ好況」が必要であり、政府が家計に直接給付するしかない、と論じている。メタバースは、日本経済逆転のラストチャンスであり、漫画やアニメなどメタバースにふさわしいコンテンツがあるので有利だとも。
そして、日本の伝統的な文化と先端的な技術が交じった「サイバーオリエンタリズム」を提唱している。AIで世界に遅れを取った日本が、メタバースで浮上するのを期待したい。
スマホが登場したとき、これほど長時間スマホの画面に釘付けになると、誰が予想しただろうか。我々とメタバースの関係もそうなるのだろうか? 面白いような怖いような未来が待っている。(渡辺淳悦)
「メタバースと経済の未来」
井上智洋著
文春新書
990円(税込)