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欧州のエンジン車規制、方針転換へ...全面禁止から「合成燃料」使用認める だが、日本メーカーには必ずしも「朗報」と言えないワケ

   欧州連合(EU)が2035年以降の新車販売で内燃機関(エンジン)車を全面禁止する従来の方針を転換し、「e-fuel(イーフューエル)」と呼ばれる合成燃料の使用を認めた。

   EV化で先頭を走ってきたEUの政策の修正の影響はどの程度か。また、EVで「出遅れ」が指摘される日本の自動車メーカーにはプラスなのだろうか。

  • 欧州のEVシフト、政策修正の影響は?(写真はイメージ)
    欧州のEVシフト、政策修正の影響は?(写真はイメージ)
  • 欧州のEVシフト、政策修正の影響は?(写真はイメージ)

35年までにエンジン車の新車販売、事実上禁止目指すも...ドイツが土壇場で反対

   EUは2023年3月28日のエネルギー相理事会で、2035年以降も条件付きでエンジン車の新車販売を容認することで正式合意した。エンジン車の新車販売を全て認めない当初案を修正した。

   EUの執行機関である欧州委は2021年7月、エンジン車の新車販売を35年までに事実上禁止する法案を提案。欧州議会が23年2月に採択し、各国の正式承認を経て法制化される予定だった。ところが、フォルクスワーゲン(VW)など多くの自動車メーカーを抱えるドイツが土壇場で反対を表明し、再調整していた。

   その結果、再生可能エネルギーで作った水素を原料に、二酸化炭素(CO2)と化学的に合成したイーフューエルに限って使用を認めることで合意した。

火力発電所で回収したCO2が原料になる「イーフューエル」で「排出実質ゼロ」に ただし、生産コストが高く

   イーフューエルは走行時にCO2を排出するが、火力発電所で回収したCO2を原料にするため、差し引きで「排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)」とみなされる。大気中のCO2を回収し、再生可能エネルギーで水を電気分解した水素と合成すれば、究極の脱炭素燃料となる。いずれも技術的には可能だ。 ただ、大きなネックがある。生産コストの高さだ。

   経済産業省の試算では、国内の水素でイーフューエルを製造した場合は1リットル約700円、再生可能エネルギーが安い海外で製造した場合でも約300円になり、ガソリン価格の2~5倍という高さだ。

   ガソリンスタンド網など既存のインフラがそのまま使えるメリットはあるが、それではカバーできない高価格というのが現状だ。

   もっとも、将来的に使用量の増加に歩調を合わせて技術革新を含め、コスト低減を図るのが、新素材などの常道だが、イーフューエルは生産量が限られ、生産・消費の拡大と価格低下という好循環を、現時点では見通しにくい。

   こうしたことから、「EUのEV化の大きな流れは変わらないだろう」(経産省筋)とみられる。

   業界関係者は「鋤で乗る人が多いポルシェ911のオーナーであれば、イーフューエルがガソリンに比べ高額だったとしても、負担に応じるというように、限られた需要が中心になっていくだろう」と指摘する。

今回、バイオ燃料は許可されず 技術開発進む日本には、やや痛手か

   日本の自動車メーカーは基本的に今回のEUの決定は歓迎だ。

   エンジン車、ハイブリッド車(HV)、燃料電池車(FCV)、水素エンジン車も重視する「全方位戦略」を掲げるトヨタ自動車を筆頭に、EV一辺倒の路線には距離を置くメーカーが多いからだ。あるメーカー関係者は「エンジン車全面禁止が少なくとも遠のいた」と評価する。

   ただ、今回のEUの決定はイーフューエルだけを認めたもので、日本としては手放しでは喜べない。政府はGX(グリーントランスフォーメーション)基本方針で、自動車や航空、都市ガスなどを含めた合成燃料分野全体に、今後10年で3兆円を投じることを打ち出している。

   民間でも、トヨタやENEOS(エネオス)、スズキ、ダイハツ工業、SUBARU(スバル)、豊田通商の6社が2022年7月、バイオ燃料の技術開発を進める研究組合「次世代グリーンCO2燃料技術研究組合」を設立している。

   EUが今回、イーフューエルだけを容認し、バイオ燃料を認めなかったのは、バイオ燃料はサトウキビやトウモロコシなどを原料とするため、世界の食料事情に悪影響を及ぼすことを懸念したためとみられる。

   このためトヨタやエネオスなどの研究組合は「食料と競合しない第2世代のバイオエタノール燃料の製造技術の向上を目指し、生産設備を実際に運転して、生産面の課題を明らかにする」というが、バイオ燃料が将来、EUでどう扱われるかは不明で、日本としては、不安なところだ。

EUの決定に評価定まらず 日経社説「積極的な取り組み」求める、毎日社説「ガソリン利用の抜け穴となる懸念」指摘

   こうした将来的な不確定要素が多いこともあって、今回のEUの決定への評価はなかなか定まらないようだ。

   大手紙では日本経済新聞の社説(2023年3月30日)が「(合成燃料は)先行するEVに比べ自動車での利用は限定的だとの見方は強い。それでも気候変動対策をリードするEUが合成燃料を脱炭素の選択肢と明確にしたことは重要だ」として、「日本も合成燃料の技術開発やコスト低減、法制度の整備に取り組み、活用に備えなければならない」と、前向きにとらえ、積極的な取り組みを求める。

   一方、毎日新聞社説(4月9日)は「脱炭素の有力な選択肢として研究開発を進める意義は大きい」としつつも、むしろ「合成燃料に特化したエンジンでない限り、ガソリン利用の抜け穴となる懸念もある。......産業競争力の向上と脱炭素の両立につながるのか、十分に検証することが活用の前提となる」など、むしろ問題点の指摘に注力。今回のEUの決定が「地球温暖化対策にブレーキをかけることにならないか、注視する必要がある」と、慎重な姿勢を示している。(ジャーナリスト 白井俊郎)