米国のシリコンバレー銀行は経営破たんして1か月が過ぎた――。
2023年3月10日、銀行持ち株会社SVBファイナンシャル・グループ傘下のシリコンバレー銀行(SVB、カリフォルニア州サンタクララ)が米国連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に入ったと発表し、事業を一たん停止され、事実上の経営破たんに陥った。
その2日後(3月12日)には、暗号資産関連企業との取引で知られる米シグネチャーバンクが経営破たん。金融システムが機能不全に陥る「システミックリスク」を抑制するため、米財務省やFRB(米連邦準備制度理事会)、FDICは同日、SVBとシグネチャーバンクの預金を全額保護する例外措置を発表。新たな流動性対策(Bank Term Funding Program)も措置。これらの施策が市場の混乱を鎮静化させるのに奏功したようだ。
シリコンバレー銀行「突然死」の要因はどこに?
シリコンバレーバンク(SVB)やシグネチャーバンクと、立て続けに起こった経営破たんの連鎖。これを、比較的早く食い止められた一つの要因は、預金の全額保護の方針を打ち出したことにある。
長期金利の上昇による保有債券への悪影響は、どの金融機関にも広く共通したものの、SVBの経営破たんが流動性管理や金利リスクの管理に問題があった、SVB固有の事情が主因であるとの「アナウンス」が効いたとされる。
SVBが経営破たんした流れはこうだ。
SVBが本社を置くカリフォルニア州サンタクララはIT系企業が多い土地柄で、なかでもSVBはスタートアップ企業との法人取引を中心に据えていた。
コロナ禍以降、米国政府の異例の金融緩和によって大量の資金がスタートアップ企業にも流入したことに伴い、SVBにも大量の預金が集まり、2022年末の資産残高はコロナ禍前の19年末と比べて約3倍に拡大していたという。
その一方で、SVBは急増した資金の運用を米国債などの債券投資に充当していた。ところが、22年からのFRBの急速な金利の引き上げで、債券価格が大きく下落して、SVBが運用している住宅ローン担保証券(MBS)などの保有債券の含み損が拡大。
同時に、金利上昇の影響でスタートアップ企業の資金調達が困難になり、経営が悪化。SVBから預金を引き揚げる動きが加わった。
シリコンバレー銀行「破たんのスピードは衝撃的」
SVBは預金引き出しに対応するため、価格が下がったMBSを売却せざるを得なくなった。そのうえ、金利上昇リスクをヘッジ(回避)していなかったため、損失を補填するための増資計画。3月8日に発表したが、これがかえって信用不安を招き、株価が急落した。
結局、増資も中止となり、経営破たんに追い込まれたとされる。(3月10日付ブルームバーグ、同11日付CNN)。
こうしたことから、米金融当局は「突然死」のようなSVBの経営破たんを、「個社要因によるところが大きかった」と断じたわけだ。
SVBの経営破たんのきっかけとなったのは、預金の流出。つまり「取り付け騒ぎ」だ。それは、かつて日本でも起こった。
1997年秋、日本では北海道拓殖銀行(現北洋銀行)や山一證券が経営破たん。それ以降、日本長期信用銀行(現SBI新生銀行)や日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)といった大手銀行や、多くの地域銀行や信用金庫・信用組合までが相次いで破たん。金融危機の時代に突入した。
当時、体力のない預金規模の小さな金融機関では「経営危機」のウワサをきっかけに預金が流出するケースが少なからず発生した。
金融当局は「預金者保護」のため、預金の全額保護を打ち出し、アナウンスした(1996年~2002年3月末までの特例措置)。それにより、表面上、取り付け騒ぎは下火になったものの、体力が脆弱な規模の小さな金融機関の預金はジワジワと時間をかけ、「静か」に取り崩されていった。
今回、SVBの経営破たんでは、かつての日本と同じことが起こったわけだ。
だが、大きく違ったのは、その「スピード感」と「目に見えない」取り付け騒ぎが起こったことだ。3月13日付のアメリカンバンカー紙は、「先週、シリコンバレー銀行の破たんのスピードが衝撃的だった」と報じていた。
店舗に並んだ預金者はほとんどいない
米国では銀行が破たんした場合、1人あたり原則25万ドル(約3400万円)までの預金が保護される。SVBは大口顧客が多く、預金総額の9割にあたる約1500億ドル(約20兆円)が対象外になる恐れがあるとみられていた。
SVBは、破たんが伝えられた3月10日(金)朝に債務超過に陥り、米金融当局が管理下に置くかどうかを検討している段階で、SNSなどを通じて銀行破たんの「ウワサ」が増幅。預金を失うことへの恐怖が瞬く間に広がったことがSVBを経営破たんに追い込んだ。SVBは大口預金が中心であったことも、預金の流出を速めた要因となった。
日本貿易振興機構(JETRO)の3月22日付「ビジネス短信」によると、「(SVBが経営破たんした翌営業日である)13日(月)は、信用不安がウワサされる銀行から預金を下ろすための長い列ができていた。だが、翌14日(火)には、その動きが落ち着いていたように見える」としている。
店舗に並んだ預金者はほとんどいない。しかし、少なくない預金者がスマートフォンで銀行のアプリや電話を使い、数分でお金を手に入れた。
「このような預金者同士の緊密なコミュニティがデジタルチャンネルを使ってつながっていると、銀行は風評被害による急激な資金流出をますます受けやすくなる」(3月25日付PBSニュース)
SNSでネガティブ情報が拡散したときの「破壊力」は、最近頻発する外食店でみられる迷惑動画で拡散する事件で周知のとおりである。
とはいえ、ネットバンキングの機能を制限することになると、顧客サービスの低下、後退につながるのでなかなか難しい。そうなると、預金流出に耐えられるだけの資産を有する必要が迫られる。規模の小さな金融機関にとっては、それも簡単ではない。
SVBの経営破たんは、デジタル時代の最初の銀行破たんであり、決して対岸の火事ではないし、金融当局と金融機関に重い課題を突きつけたようでもある。