日銀と市場の「時間軸」には、「数年先」と「数か月先」のズレがある
「植田総裁は予想以上にハト派だ。多くの人が考えているより、政策修正は先になる」と辛口のコメントをするのは、第一生命経済研究所の首席エコノミストの熊野英生氏だ。
熊野氏のリポート「植田総裁の初会合、2023年4月会合~黒田緩和の刷新はせず」(4月28日付)では、こう指摘する。
「金融政策運営のレビューをするときに『1年から1年半程度の時間をかけて』行われると記述されていた。この記述をみて多くの人が驚いた。これでは、日銀はすぐに政策修正をしないと見られてもおかしくはない。総裁会見では、『レビューは目先の政策変更に結びつけない』と明言した」
「従来の就任会見などで語っていた『物価安定は積年の課題』としてきた発言とはかなり温度差がある」
「発表文では、指値オペの方針はそのままで、『必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる』という文言も黒田時代と全く変わっていなかった。どうも黒田時代の政策運営は、当面は刷新される訳ではなさそうだ」
そして、熊野氏はこう批判する。
「植田総裁の言葉にはやや曖昧すぎるところがある。今回の発表をみる限りは、植田総裁の政策の時間軸は極めて曖昧だ。レビューについて、『1年から1年半程度の時間をかける』というのは、時間のかけすぎだ。これでは、1年後(2024年度)から1年半後(2024年度後半)まで大掛かりな政策修正をしないという情報発信に聞こえる」
「多くの人は、点検や再検証とは黒田緩和の弊害を是正するためにやるのだと考えていた。しかし、今回はデフレに陥った1990年代後半以降の25年間を対象にするという。そんな長期間をかけて構造分析をする必要性はない。ここは、黒田緩和の是正を期待する人々の思惑とは完全にすれ違っている」
熊野氏は、以前から日本銀行の「時間軸」と、マーケットが認識する「時間軸」には、「数年先」と「数か月先」といった相当なずれがある、と批判したうえで、こう結んだ。
「今回の会合でかなりはっきりしたことは、目先、YCCの見直しはしないという姿勢である」
「当面の政策運営はYCCを撤廃したり、有名無実化するようなことはすぐには実施されず、しばらくは愚直に黒田時代の枠 組みを維持することになるだろう」