収まったかに見えた米国の金融不安が再燃し、米国市場が大揺れに揺れている。
大手銀行11行の支援を受け、再建に乗り出した米中堅銀行ファースト・リパブリック・バンク(FRC)が、予想以上の収益悪化と、預金の大量流出が続いていることが判明し、金融株を中心にニューヨーク株式市場が下落した。
景気後退の危機が迫るなか、米国経済はどうなるのか。エコノミストの分析を読み解くと――。
大手11行の巨額支援も「焼け石に水」だった
米金融システム不安が再燃したきっかけは4月24日、1~3月期決算を発表した米中堅銀行のファースト・リパブリック・バンク(FRC)が、昨年末から今年3月末の間で、4割を超える預金が流出したことを明らかにしたこと。
FRCと言えば今年3月、シリコン・バレー・バンク(SVB)など米3銀行の破綻を受けて、米大手11行が支援に動き、合計300億ドル(約4兆円)預金注入を受けていた。イエレン米財務長官も、中小規模の金融機関が経営難に陥った場合、政府は預金者保護のために思い切った措置をとると表明、経営危機は落ち着いたとみられていた。
ところが、預金の流出は続いていたわけだ。
大手銀行による預金の注入がなければ、預金は前期比6割減というケタはずれの流出だ。同行株は翌25日、前営業日比49%安と急落。株価は、金融不安が生じる前の3月上旬の水準から、ほぼ10分の1に下落した。
これを受けて、他の米地銀株にも売りが波及し、S&P500地銀株指数が年初来安値を更新するなど、ウォール街に米金融危機を巡る不安が再燃したかたちとなった。
大統領選控え、金融不安に公的資金投入できないバイデン政権
こうした事態をエコノミストはどうみているのか。
日本経済新聞オンライン版(4月26日付)「米地銀FRC株下げ止まらず 26日は3割安、支援策難航か」という記事に付くThink欄の「ひと口解説コーナー」では、みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は、
「かなり危うい状況だと、筆者(=上野泰也氏)はみている。イエレン財務長官は公的資金、英語で言えば『タックスペイヤーズマネー(納税者の資金)』を金融不安への対応で投入することに、基本的に消極姿勢である。民間大手銀主導で問題を自律的に解決してほしいというのが、イエレン長官をはじめとする当局者の心中だろう。2024年には大統領選挙が控えており、バイデン政権が金融不安への対応で公的関与を強めることは政治的に不利になり得る」
と、大統領選挙への影響を考慮して米政府が動きにくいと指摘。
「加えて、(ニュース専門放送局の)CNBCが関係者の情報として報じたところによると、ホワイトハウスや米財務省は、懸案となっている米地銀の資産売却計画をとり大統領選挙いまとめるよう他の銀行に圧力をかけることに前向きでないように見えるという」
と、状況の悪化に懸念を示した。
日本経済新聞オンライン版「米地銀FRC、預金4割流出 人員25%削減・再編を模索」という記事に付くThink欄の「ひと口解説コーナー」では、BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部副会長の中空麻奈氏が、
「米国には2022年6月末で9624行、商業銀行だけでも4000行超ある。このうち、SVB(シリコンバレーバンク)の影響などをうけて預金が流出したのは何行あるのか。預金金融機関にとって、預金がどのくらいの期間にどのくらい流出すると流動性に疑問符が付くようになるのか。いわゆる風説の流布的な問題がSNSなどで生じた場合の流動性流出をどう防止できるか」
と、SNSの風説の流布といった、これまでの金融危機になかった側面を指摘。そのうえで、
「今般も(FBCが)預金は2022年12月対比で41%減。収入が前年比13.4%減、純利益が同32.9%減。経営状況はいかにも苦しいものの、赤字ではなかった。さらにCET1比率9.32%、不良債権比率は0.02%と財務内容を示す各比率に問題は見えない。悩ましい問題がまだまだ続きそうである」
と、「問題山積み銀行」が表面化しにくい状況を指摘した。
今後の焦点は、FRBが5月に利上げするかどうか
「米金融システム不安の再燃で、FRB(米連邦準備制度理事会)の高金利政策の長期化観測は後退しつつある」と指摘するのは、野村アセットマネジメントのシニア・ストラテジスト石黒英之氏だ。
石黒氏はリポート「米金融システム不安再燃で揺れる米国市場」(4月26日付)のなかで、米の小規模銀行の預金が急激に減っている現状をグラフで示しながらこう説明した【図表1】。
「3月に米金融機関が相次いで破綻したことをきっかけに、米小規模商業銀行から2週間で2000億米ドル(26兆8000億円)を超える預金が流出するなど、米金融機関の経営の先行き不透明感が強まっています【図表1】」
「米当局の対応もあり、足元で大規模な預金流出には歯止めがかかっていますが、今回のファースト・リパブリック・バンクのように個別で問題を抱えている金融機関が今後も出てくる可能性には注意が必要といえます。預金流出によって金融機関の貸出姿勢が厳しくな ると、他の業界で資金繰り懸念が高まることが想定されます」
そして、こう結んだ。
「5月のFOMC(米連邦公開市場委員会)を最後に、FRBが利上げを停止する姿勢を示すかが、米国市場の落ち着きを探るうえで焦点となります」
米地銀が再建策を進めると、米経済が混乱するジレンマ
ファースト・リパブリック・バンク(FRC)のように経営が悪化している米地銀が、再建のために資産リストラを進めれば、さらに米経済に混乱を招くジレンマがある――そう警告するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
野村氏のリポート「再び注目される米国地銀の経営問題:資産リストラの経済・不動産市場への悪影響に注意」(4月27日付)によると、FRCは経営改善のため、500億~1000億ドル相当の大規模な資産売却を模索しているが、そこにはこんな問題点があるという。
「低金利環境下でFRCが提供した住宅ローン債権を売却しようとすれば、金利上昇による住宅市場の悪化の影響から、売却損が生じる可能性もある」
「FRCは、資産の売却に加えて、資産の中身も大きく見直す方向だ。従来は、元本返済を猶予し当面は金利の支払いだけという条件のジャンボモーゲージ(大型の不動産ローン)を顧客に提供してきた。しかし、それは流動性が低い債権であった。FRCは、今後は、流通市場で売却可能なローン債権に軸足を移す方針だという」
「このようなローン債権の売却やリストラは、FRCの経営改善にはつながることが期待できる。しかし多くの地銀が同様な取り組みを行えば、実体経済に悪影響を与えることになるだろう。特に不動産業界には大きな打撃となるだろう」
「米国の商業用不動産向け融資で地銀は3割程度のシェアを持つという。経済の悪化、不動産価格の下落は、地銀の貸出債権の劣化を通じて、銀行の収益を損ね、銀行経営のさらなる逆風となっていくことが予想される」
現在、【図表2】でわかるように、米米中小銀行の預金が急激に流出している。FRCに典型的にみられるように、米中小銀行による経営改善の取り組みが必死に続けられているが、それが、経済、不動産市場の悪化を通じて、新たな銀行不安を引き寄せてしまう可能性があるというのだ。(福田和郎)