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金融危機の芽は至るところに?...エコノミスト「創刊100年」、東洋経済「コスパがいい資格・検定」、ダイヤモンド「シン富裕層」を特集

   「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。

過去30年間で最も不透明な時代

   「週刊エコノミスト」(2023年5月2日・9日号)が、創刊100周年を記念して、「これまでの これからの100年」という特集を組んでいる。

   同誌が創刊されたのは、1923(大正12)年4月1日。関東大震災の5カ月前のことだった。戦時中には「英語禁止」を受け、「経済毎日」に改題されたこともあった。

   グラビアでは、過去の表紙デザインからエポックメーキングに掲載。世界恐慌、敗戦、高度経済成長、石油危機、バブル崩壊、リーマンショック、コロナ禍など、いくつもの大きな波を乗り越えてきた、日本経済と同誌の歩みをビジュアルに紹介している。これまでの100年の歴史を振り返れば、これからの100年のための羅針盤になるだろう。

   巻頭には、ドイツのマックス・プランク研究所のヴォルフガング・シュトレート名誉所長のインタビューを掲載。「社会と国家は緩やかに崩壊しつつあり、過去30年間で最も不透明な時代になった」と、グローバル化と民主主義の危機を語っている。

   歴史に学ぼうと、さまざまなテーマの寄稿を掲載している。

   「国際金融危機」については、元財務相副財務官の宮崎成人・東京大学大学院客員教授が、1920年代後半からの大恐慌、1971年のニクソンショック、2007~08年の世界金融危機など過去の金融危機の歴史を振り返り、思いがけないところから次の危機が生まれてくるのが現実だ、と指摘している。

◆3月に欧米で起きた銀行の破綻は、大きな危機の予兆なのか?

   今年3月に欧米でいくつかの銀行が破綻した「ミニ危機」が、大きな危機の予兆なのかを検討。

   オンライン・バンキングの普及によって、預金引き出しが急速化したなど、重要な課題を残したのも事実だが、それ以上に、政治的分断により、米連邦議会で与野党が連邦政府債務上限の引き上げに合意できなければ、米国債のデフォルトという想像を絶する事態が発生する恐れがあると警告している。

   超緩和的な金融環境が急速に変わる中、危機の芽は至るところに隠れているというのだ。

   喫緊の課題とされる「エネルギー」について、橘川武郎・国際大学副学長が、石炭から石油、原子力と主役が次々に入れ替わった歴史を解説。これからの100年、主役は再生可能エネルギーに変わっていくだろう、と見ている。決して原発の再稼働ではないことに留意したい。

   経済学の歴史について、水野和夫・法政大学教授が回顧。哲学・道徳を奪った新古典派経済学を批判し、アダム・スミス、マルクス、ケインズを再考する時だ、と書いている。

   経済界や学界には「エコノミスト」のファンも多いようだ。骨太な誌面がこれからも続くことを期待したい。

コスパがいい資格はどれ?

   「週刊東洋経済」(2023年4月29日・5月6日号)の特集は、「食える資格・検定&副業 100」。投資に対してコスパがいい資格は何か。その100の中には、「こんなのもあったのか」と驚くような資格・検定も総ざらいしている。

   資格特集はこれまで何回も見てきたが、今回ユニークなのは、各資格の難易度と収入を比べたマトリックス図を掲載。どの資格が「割がいい」のか、一目でわかるようにしたことだ。

   最上位かつ最右翼にあるのが司法試験。一方、下位で最左翼にあるのが、キャリアコンサルタント。

   比較的取るのが難しすぎず、収入も高いのは、社会保険労務士や行政書士。「コスパがいいのは今や公認会計士。大学在学中に集中して勉強、短期で合格し、大手監査法人や外資のコンサルティングファームに就職する人も目立つ」という。

   役に立つと思ったのは、宅地建物取引士、行政書士など主要資格の年間学習スケジュールを一覧表にしてまとめていることだ。

   どの科目をいつ、どれくらい勉強すればいいかの目安がわかる。その中でもダントツに厳しいのが、税理士だ。1年ではなく3年計画だ。しかも、10年選手が珍しくないという。科目合格制なので、5科目のうち、年1~2科目を勉強していくペースだと無理なく続けられ、働きながら取得するにはいいという。

   ロースクール(法科大学院)がつくられ、合格率も上がり、増えすぎたと言われた弁護士。だが、「食えない」と言われたのは過去のことで、今や最も脚光を浴びる士業だという。予備試験ルートもあるが、ロースクールこそが早道だそうだ。上位のロースクールの合格率は6割以上だ。

   評者の周囲にも会社を辞め、ロースクールに行き、弁護士になった人が何人かいる。もちろん努力しただろうが、みな普通の人たちだ。学習法もシステマティックに整備されているので、適正な努力をすれば報われる試験と言えよう。

◆1時間の勉強で4万円の将来価値を生む!

   読み物では、医師国家試験、司法試験、公認会計士試験の「三大難関国家資格」を制覇した河野塾ISM代表の河野玄斗さんのインタビューが面白い。

   「資格試験の勉強に1000時間費やし、合格後に年収が100万円上がったとする。40年分の生涯賃金に換算すると4000万円だ。つまり1時間の勉強で4万円の将来価値を生んだことになる。その意味で資格は『コスパ最強』の自己投資である」と語っている。

   現実的なところではどうなのか。アンケート調査で、ビジネスパーソンが就職に役立つ資格として挙げているのは、1位日商簿記検定、2位宅地建物取引士、3位TOEIC、4位ファイナンシャルプランナー、5位英検となっている。

   副業系のインフルエンサー、アフェリエイト、動画制作のマネタイズの方法のほか、無料で利用できる資格試験対策のYouTubeも紹介しているので、参考になるだろう。

「シン富裕層」は本気で海外移住

   「週刊ダイヤモンド」(2023年4月29日・5月6日号)の特集は、「シン富裕層」。新たな志向を持った億万長者、「シン富裕層」が日本で台頭してきているという。その投資、節税、相続の驚くべき実態に迫っている。

   ひと昔前には職業として存在すらしていなかった仕事で、大きな収入を得る富裕層が生まれてきている。従来なかったのは、「ノウハウビジネス」型や「YouTuber」型、「暗号資産インベスター」型だ。ネットビジネスの進化や暗号資産の普及が彼らを生んだ。

   また、医師などの高収入のエリートがさらに投資によって資産を急拡大するタイプもいる。彼らの資産運用術の7つの鉄則とは――。

1 長期の「目線」 「弱気相場は友だち」と考えている
2 投資の「分散」 保有10~25銘柄+候補10~25銘柄=20~50銘柄」を管理
3 ピラミッド型の「資産積み上げ」 ローリスク5・ミドルリスク3・ハイリスク2
4 投資家の「共通言語」「EPS(1株当たり純利益)」や「PER(株価収益率)」を理解
5 学術的な「裏付け」 「現代ポートフォリオ理論」は押さえておきたい
6 「天・地・人」3つの視点 経済動向、企業分析、投資手法いずれも相応のレベルに
7 投資手法の「高度化」 外国株式のオプション取引を知っているか?

◆超富裕層は、シンガポールへの移住を検討

   こうして稼いだ彼らはどんな行動を取るのか。いま超富裕層は、シンガポールへの移住を検討しているという。その理由はビジネスのリモート化と「ドンキ」にあるという。リモート化はわかるが、「ドンキ」とは?

   シンガポールでドンキは、「DON DON DONKI」の名称で15店舗ほどを展開する、生鮮食品が中心のスーパーだという。日本の肉、野菜、魚、調味料が数多く売られ、値段は日本の1.5倍くらい。シンガポールは税金が安いので、家計支出の実質的なキャッシュフローは日本と変わらない。

   経営者が日本にいなくても問題ないビジネスモデルであれば、居住も生活もしやすく、10年という年月も乗り越えられる環境だという。

   日本で富裕層への課税強化が進み、将来的な相続税を避けるために、とりあえずシンガポールへというのだ。

   さらに、南海トラフ地震などの自然災害リスク、それに伴うハイパーインフレなどによる資産の激減リスクをヘッジしたいと考えているという。治安なども考慮すると、シンガポールが海外移住の選択肢として最有力になるそうだ。

   元国税調査官が明かす税務調査のポイントを見ると、富裕層への課税は間違いなく厳しくなる。富裕層の節税、教育対策の要となる「海外移住」完全マニュアルまでまとめているから、「シン富裕層」の本気ぶりがうかがえる。(渡辺淳悦)