大学病院医師の「2024年問題」...労働時間短縮で「診療」「研究」「教育」の質低下に懸念(鷲尾香一)

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   一般社団法人全国医学部長病院長会議は2023年4月18日、医師の「2024年問題」が診察や研究、教育面で大きな影響があるとした「大学病院における医師の働き方に関する調査研究報告書」を公表した。

労働基準法に時間外労働の上限を規定、24年4月から適用開始...「2024年問題」

   「2024年問題」は、2019年に働き方改革の一環として労働基準法に時間外労働の上限が規定され、適用が5年間猶予されていた業種にも、2024年4月から適用が始まることに伴って起きる問題を指す。

   今回のアンケート調査では、病院に対する調査と医師個人に対する調査が実施された。病院の調査は、国公私立81大学(国立42大学、公立8大学、私立31大学)に実施し、すべての大学から回答を得た。

   医師個人調査は各大学の教授、准教授、講師、助教、医員、専攻医または後期研修医、臨床研修医について内科系、外科系、その他の診療科等別に性別も考慮して、それぞれ1名選出して調査、981名から回答を得た。

   病院の調査結果では、医師の働き方改革により、医師の労働時間短縮が進められことで、

(1)授業の準備に必要な時間の確保が出来なくなり、教育の質の低下が生じる(84.0%)
(2)学生への個別指導時間の確保が出来なくなり教育の質の低下が生じる(81.5%)
(3)臨床実習で必要な時間の確保が出来なくなり、臨床教育の質の低下が生じる(88.9%)

がいずれも80%を超える高い割合で懸念されているとの結果となった(複数回答)。

   医師個人への調査結果では、直近3か月間の平均的な週当たり(7日間)の大学での労働時間では、週40時間~50時間未満が最も多く337人(34.4%)となっており、次いで週50時間~60時間未満が283人(28.8%)となっている。(表1)

   1日8時間労働で週5日間の場合、週の労働時間は40時間だから、医師の場合に週40時間~50時間未満が最も多かった点は、医師が極端に長時間労働ではないとも言える。

兼業・副業先での平均的な労働時間は? 週10時間以上の割合、若手医師で高く

   しかし、大学病院は地域の中核的医療機関としての機能の他に、地域の医療機関に医師を派遣する等により地域医療の一翼を担っており、このため大学病院に勤務する医師は兼業・副業が多い。

   さらに、現在、大学病院の医師の給与は一般医療機関や国立病院機構と比べて、年収で500万円から700万円ほどの差が生じている。そのため、大学病院の医師のほとんどは、兼業や副業により給与差額分を補っているという現状もある。

   直近3か月の兼業・副業先での平均的な労働時間では、週5時間~10時間未満が最も多く、552人(56.3%)で、次いで週10時間~15時間未満の169人(17.2%)となっている。また、週10時間以上の割合は若手医師で高くなっている。(表2)

   また、兼業・副業先での平均的な週当たり宿直回数は、「週1回」が最も多く247人(25.3%)、次いで「週2回」の39人(4.0%)となっている。(表3)

   医師の働き方改革により労働時間が短縮されることで、最も影響を受けると考えられる業務では、「診療」が最も多く58.3%、次いで「研究」が29.8%、「教育」が11.9%という結果となった。

   2024年問題により、大学病院の診療が大きな影響を受けることは、医療水準の低下につながる。また、教育・研究への影響は大学の根幹を揺るがすもので、日本の医学・医療に重大な影響を及ぼす可能性がある。

   大学病院の医師の2024年問題を解決するためには、ICT(情報通信技術)などによる医師をサポートするシステムの充実とともに、給与水準の引き上げなどによる人員の増強などを図ることが急がれ、政府の十分な支援が必要だろう。

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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